細野透の「赤信号・黄信号・青信号」 不定期
細野 透

[第8号]大規模マンションの資産価値をトコトン研究

2017年11月01日

湘南エリア最大のマンション「プレミスト湘南辻堂」

 

 大和ハウス工業、神奈川中央交通、長谷工コーポレーションの3社は、湘南エリア最大の分譲マンション、「プレミスト湘南辻堂」の第1期販売を11月下旬に開始する予定です。価格は専有面積約72平方メートルのタイプで、4500万円程度になると思われます。

 ハード面には次のような特徴があります。

 (1)東海道本線「辻堂駅」北口から徒歩9分。
 (2)敷地はNTT社宅の跡地で、約3万5000平方メートルの広さがある。
 (3)建物はアクアフェイス(西街区)、フォレストフェイス(東街区)に分かれている。
 (4)西街区は14階・404戸、東街区は13階・510戸、合計で914戸。

完成予想写真
完成予想写真。左側(西街区)がアクアフェイス、右側(東街区)がフォレストフェイス(画像データは大和ハウス工業の提供)

完成予想写真
配置図(画像データは大和ハウス工業の提供)

 

 ソフト面には次のような特徴があります。
 (1)最寄りの辻堂駅北口まで居住者専用のシャトルバスを運行。
 (2)クラブカフェ、アリーナ、ライブラリーなど16種類の共用施設を備える。
 (3)音楽イベント、陶芸教室、サーフィン教室など10種類以上のイベントを開催。
 (4)体力測定にもとづいて、個別にトレーニングメニューを作成する、ウェルネスサービスを導入。

クラブカフェ
クラブカフェ(画像データは大和ハウス工業の提供)

 

駅からマンションまでの徒歩時間

 

 最寄り駅からマンションまでの徒歩時間は、「不動産の表示に関する公正競争規約」に従って計算されることになります。詳しく説明しましょう。

 (1)「起点」は最寄り駅とし、「着点」はマンションの敷地のうち、駅に最も近い地点とする。
 (2)すなわち、「最寄り駅からマンションのエントランスまでの距離」を、意味しているワケではない。
 (3)直線距離ではなく、道路に沿って測定した距離(道路距離)をベースにする。
 (4)道路距離80mを、徒歩1分に換算する。
 (5)坂道があるときでも、道路距離80mを徒歩1分と計算していい。
 (6)80m未満の端数が出たときは、その分を切り上げて1分と計算する。
 (7)横断歩道などを渡るときでも、信号待ちの時間は考慮しなくてもいい。

 プレミスト湘南辻堂の場合には、JR東海道本線「辻堂駅」北口から徒歩9分と表記されています。ただし、マンションの敷地が約3万5000平方メートルと広いため、最も遠い位置にある住戸の場合にはさらに3分程度かかります。それに加えて、高層階に上がるためエレベーターを利用する場合には、待ち時間を考えると最低でも1分は必要です。

 すなわち、大規模マンションでは、駅までの「真の徒歩時間」が、住戸の位置によって大きく違うことに注意しなければなりません。

「辻堂駅」から「プレミスト湘南辻堂」までの案内図
「辻堂駅」から「プレミスト湘南辻堂」までの案内図(画像データは大和ハウス工業の提供)

 

徒歩時間別の中古マンション坪単価

 

 駅からマンションまでの徒歩時間が、「不動産の表示に関する公正競争規約」に詳しく定められているのはなぜでしょうか。それは、徒歩時間がマンションの資産価値を大きく左右するためです。

 こういう場合、頼りになるのは、不動産情報サービスの東京カンテイが調べたデータです。同社は2010年10月に、「徒歩時間別──新築&中古マンション坪単価」と題するプレスリリースを発表しています。

 まず中古マンションのデータを紹介しましょう。図は「三大都市圏・駅徒歩時間別──中古マンション徒歩1分との坪単価差」です。

 

三大都市圏・駅徒歩時間別
「三大都市圏・駅徒歩時間別──中古マンション徒歩1分との坪単価差」(図表データは図表は東京カンテイ・プレスリリースから引用)。

 

 首都圏では、駅から徒歩1分の中古マンションを基準とすると、1分遠ざかるごとに坪単価が4.0万円ずつ下落する傾向にあるのが分かります。

 徒歩5分──坪単価が11.3万円の下落
 徒歩10分──坪単価が36.2万円の下落
 徒歩15分──坪単価が60.3万円の下落

 仮に駅から徒歩1分の場所にある、中古マンションの専有面積70平方メートル(21.21坪)の住戸が、坪単価200万円だとしましょう。この場合には、価格は4242万円になります。

 徒歩1分、徒歩5分、10分、15分の中古マンションを比較してみましょう。

 徒歩1分──坪単価200.0万円(価格4242万円)
 徒歩5分──坪単価188.7万円(価格4002万円)
 徒歩10分──坪単価163.8万円(価格3474万円)
 徒歩15分──坪単価139.7万円(価格2963万円)

 このように、首都圏にある中古マンションの資産価値は、最寄り駅からの徒歩時間にほぼ比例しているのです。なお神奈川県に関しては、東京カンテイのプレスリリースに、詳しいデータが掲載されています。

 

徒歩時間別の新築マンション坪単価

 

 次に新築マンションのデータを紹介しましょう。

三大都市圏・駅徒歩時間別
「三大都市圏・駅徒歩時間別──新築マンション徒歩1分との坪単価差」(図表データは図表は東京カンテイ・プレスリリースから引用)。

 

 首都圏では、駅から徒歩1分の新築マンションを基準とすると、1分遠ざかるごとに最初は坪単価が少し上昇するのに、徒歩6分を過ぎると下降に転じ、坪単価が2.8万円ずつ下落する傾向にあるのが分かります。

 徒歩5分──坪単価が1.6万円の上昇
 徒歩10分──坪単価が20.2万円の下落
 徒歩15分──坪単価が41.5万円の下落

 仮に駅から徒歩1分の場所にある、新築マンションの専有面積70平方メートル(21.21坪)の住戸が、坪単価220万円だとしましょう。すると価格は4666万円になります。

 徒歩1分、徒歩5分、10分、15分の新築マンションを比べてみましょう。

 徒歩1分──坪単価220.0万円(価格4666万円)
 徒歩5分──坪単価221.6万円(価格4700万円)
 徒歩10分──坪単価199.8万円(価格4238万円)
 徒歩15分──坪単価178.5万円(価格3786万円)

 このように、首都圏にある新築マンションの資産価値は、最寄り駅からの徒歩時間にほぼ比例しているのです。ただし、中古マンションの資産価値が最寄り駅からの徒歩時間に「極めて強く比例」しているのに、新築マンションは「普通程度に比例」している感じです。

 なお神奈川県に関しては、東京カンテイのプレスリリースに、詳しいデータが掲載されています。

 

居住者専用のシャトルバスを運行

 

 大規模マンションの場合には、「最寄り駅からの徒歩時間」だけではなく、「その先にある各住戸までの徒歩時間」を考える必要があります。

 最近では最寄り駅から徒歩10分を超えると、居住者専用のシャトルバスを用意するケースが増えています。

 プレミスト湘南辻堂の場合には、最寄りの辻堂駅からは徒歩9分なのですが、その先にある各住戸までの徒歩時間が最大で4〜5分かかることが考慮されたのか、シャトルバスが用意されることになりました。私もシャトルバスに乗せてもらいましたが、なかなか快適でした。

 このマンションの売主は、2017年1月の段階では、大和ハウス工業と長谷工コーポレーションの2社で構成されていました。しかし、その後に神奈川中央交通が加わって、現在は3社で構成されています。

 神奈川中央交通が加わった理由の1つは、「シャトルバスの運行はプロに任せた方が安心だから」ということなそうです。

 同社は100両を超えるシャトルバスを運行しています。ホームページを見ると、「経験豊富な運転士、安全走行を支える整備体制、心地よい接客サービス、万が一の事故にも万全な対応、トータルコストダウンを実現、自由なカラーリング」などとPRしています。

「プレミスト湘南辻堂」で運行されるシャトルバスのデザイン
(「プレミスト湘南辻堂」で運行されるシャトルバスのデザイン、画像データは大和ハウス工業の提供)

 

 気になるのは本数ですが、朝の通勤時間帯には1時間に8台のペースで、1台当たり35名まで乗車できるそうです。すると「8×35名=280名」ということになります。

 先ほど「中古マンションの資産価値が最寄り駅からの徒歩時間に『極めて強く比例』しているのに、新築マンションは『普通程度に比例』している、と述べました。

 それを考慮すると、「プレミスト湘南辻堂」はシャトルバスを運行しているため、最寄り駅からの徒歩時間が数分くらい近くなっているお陰で、実際の価格よりは資産価値が向上している──という風に受け取ることができるかもしれません。

 ただし、色々調べてみましたが、「シャトルバスと資産価値」に関するデータは見当たりませんでした。居住者専用のシャトルバスを運行しているマンションの管理組合が、共同でその当たりを調査すれば、有用なデータが得られるかもしれません。

 

管理費と修繕費の全国的な平均値

 

 共用施設の運営・管理・維持やイベントの開催には費用がかかります。またシャトルバスの運行にも費用がかかります。その費用は原則として、各住戸の所有者が毎月支払う、「管理費」および「修繕積立金」でまかなわれます。

 住戸の所有者──「管理費」および「修繕積立金」を支払う
 管理組合──「管理費」および「修繕積立金」を管理する
 管理会社──管理組合から依頼されて、共用施設を運営・維持・管理する

 わざわざこのようなことを書いたのは、2017年9月に開催された「プレミスト湘南辻堂・モデルルーム」記者内覧会に出席した報道関係者の中から、「このマンションの共用施設は立派ですが、それを運営・管理・維持するための費用は、誰が支払うのですか」という質問が出たためです。

 おそらくマンションを取材した経験がなかったため、このような質問をしたのだと思いますが、考え方によってはいい質問です。

 一方、マンションに詳しそうな報道関係者からは、「管理費および修繕積立金はいくらですか」という質問がありました。これに対して、担当者からは「平均的な広さの住戸では2万5000円前後」という回答がありました。この金額をどうとらえればいいのでしょうか。
 
 国土交通省住宅局市街地建築課マンション政策室が、2015年4月に発表した「平成25年度マンション総合調査」を調べてみました。

 【501戸以上の大規模マンションの場合】

 1戸当たり・月当たりの管理費(全国平均値)─1万4931円
 1戸当たり・月当たりの修繕積立金(全国平均値)─1万2766円
 管理費と修繕積立金の合計2万7697円

 プレミスト湘南辻堂が全国平均値を下回ることができたのは、914戸という規模の効果だと思われます。

 

 

マンション管理会社の評判

 

 同マンションの管理会社は、長谷工コミュニティです。実は本ウェブサイト「住まいサーフィン」は、毎年、「入居者が選ぶ管理会社満足度ランキング」を発表しているので、長谷工コミュニティの評判はすぐに分かります。

【2017年の全体ランキング(25社を評価)】

 1位─野村不動産パートナーズ
 2位─三井不動産レジデンシャルサービス
 3位─住友不動産建物サービス
 4位─伊藤忠アーバンコミュニティ
 5位─東京建物アメニティサポート
 5位─三菱地所コミュニティ
 7位─モリモトクオリティ
 8位─東急コミュニティー
 9位─長谷工コミュニティ
 以下25位まで

 評価の対象は、5大項目・17小項目に分かれています。長谷工コミュニティは全体では9位ですが、イベントという小項目では2位に入っています。

 プレミスト湘南辻堂で10種類以上のイベントが開催されたのも、長谷工コミュニティから提案があったためなのかもしれません。

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細野 透(ほその・とおる)
建築&住宅ジャ─ナリスト。

 建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

 著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。