細野透の「赤信号・黄信号・青信号」 不定期
細野 透

[第17号]「アトラス四谷」の追い風となる、四ツ谷駅近くの大規模再開発事業

2018年07月03日

民間企業による「わが国初の分譲マンション」を再生


 旭化成不動産レジデンスの新築分譲マンション、「アトラス四谷」を詳しく取材する機会がありました。

 1956年(昭和31年)に、民間企業によるわが国初の分譲マンションとして竣工した「四谷コーポラス」を解体して、「アトラス四谷」として再生するマンションです。

 「四谷コーポラス」はJR「四ツ谷」駅から徒歩6分。外堀通りから少し入った住宅街に、地上5階建て、全28戸の分譲マンションとして完成しました。売主は日本信用販売で、設計・施工は佐藤工業が担当しました。

 住戸のうち24戸はメゾネットタイプで、入居者の要望を聞く「オーダーメード」方式で設計されました。専有面積は76.89平方メートル(23.3坪)、価格は1戸233万円でした。

 当時は大卒の初任給が1万円程度。また公営住宅の専有面積は12坪、公団住宅の専有面積は13坪が標準でした。

 そういう時代に、専有面積が23.3坪もあり、今日でいう「コンシェルジュサービス」を提供する「四谷コーポラス」を誰が購入したのでしょうか。大学教授、弁護士、大手企業社長などの富裕層だったそうです。

(旧「四谷コーポラス」の外観。画像データはすべて旭化成不動産レジデンスの提供)

 

「事業協力者選定コンペ」の結果、旭化成不動産レジデンスに依頼


 しかし築後50年が過ぎた頃から、建物の老朽化(耐震性不足、コンクリートの劣化)や、インフラの老朽化(給排水設備の修繕が物理的に困難)が目立つようになりました。

 そのため2015年6月、管理組合に「建替推進委員会」を発足。2016年10月には「事業協力者選定コンペ」を実施して、旭化成不動産レジデンスに建替を依頼しました。

 旭化成不動産レジデンスはマンションを建て替えて再生する事業に熱心な企業として知られ、多くの実績を持っています。例えば・・・。

 「同潤会江戸川アパートメント」➡「アトラス江戸川アパートメント」として再生

 「諏訪町住宅」➡「アトラス諏訪町レジデンス」として再生

 「河田町住宅」➡「アトラス新宿河田町ヒルズ」として再生

 「アトラス四谷」再生の依頼先を決めた後、翌2017年3月には建替決議が成立。同年9月には住民が引っ越しを終えるのを待って、建物の解体工事に着手しました。

 新たに建設される「アトラス四谷」と、解体された「四谷コーポラス」を比較してみましょう。

新たに建設される「アトラス四谷」と、解体された「四谷コーポラス」

 旧「四谷コーポラス」は地上5階で、延べ床面積は2290平方メートルだったため、住戸数は28戸だけでした。

 それに対して、新「アトラス四谷」は地下1階・地上6階に変更して、延べ床面積を3986平方メートルに広げたため、住戸数も51戸に増やすことができました。

 そのうち非分譲住戸23戸には従来の区分所有者が入居し、分譲住戸28戸には新たな購入者が入居することになります。

アトラス四谷

(「アトラス四谷」の完成予想写真。外観)

 

四ツ谷駅近くで緑の広場を持つ再開発事業


 新しい分譲マンション「アトラス四谷」が、宿区四谷本塩町に竣工するのは、2019年7月の予定です。それと同時並行するかのように、四ツ谷駅と宿区四谷本塩町のちょうど中間のエリアで、四谷地域初の駅前大規模再開発事業が進行しています。建築主はUR都市機構です。

 そして2020年1月には、緑の広場、オフィスタワー、暮らしやビジネスをサポートする商業施設、国際文化交流施設、教育施設などが完成する予定です。

 こういう公共性の高い再開発事業は、分譲マンション「アトラス四谷」にとっては資産性を向上させる追い風になります。それもあって、「アトラス四谷」の販売は順調です。

 ちなみに、第1期販売では、価格は3898万〜9398万円(専有面積約30〜約61平方メートル)、平均坪単価は460万円でした。

アトラス四谷完成図

(「アトラス四谷」の完成予想写真。エントランス付近)


【アトラス四谷の概要】
 所在地─東京都新宿区四谷本塩町10-1(地番)
 交通─JR中央・総武線「四ツ谷」駅徒歩6分
 総戸数─51戸(分譲住戸28戸、非分譲住戸23戸)
 敷地面積─約996平方メートル
 建築延床面積─約3986平方メートル
 構造・規模─鉄筋コンクリート造、地上6階・地下1階
 地域・地区─第1種住居地域
 自転車置場─60台
 バイク置場─6台
 管理会社─旭化成不動産コミュニティ
 建物完成─2019年7月下旬予定
 売主─旭化成不動産レジデンス
 設計・監理─パルシップ
 デザイン監修─E.A.S.T.建築都市計画事務所
 施工─佐藤秀

 

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細野 透(ほその・とおる)
建築&住宅ジャ─ナリスト。

 建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

 著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。