●●●最高価格は7億1000万円台
三菱地所レジデンス、大林新星和不動産、東急不動産の3社は、分譲マンション「ザ・パークハウス渋谷南平台」(総戸数100戸)の第1期販売を10月下旬に開始する予定です。
それに先立つ10月上旬、3社は報道関係者を対象に「モデルルーム内覧会」を実施しました。
東京都港区南青山にある、三菱地所レジデンスの「青山ギャラリー」に集合。責任者から「住宅市況」や「物件概要」について説明を受けて質疑応答を行い、その後にモデルルームを見学する──というような内容です。
(青山ギャラリー案内図。データは三菱地所レジデンスの提供)
「ザ・パークハウス渋谷南平台」は、東京都心における今年秋の“目玉物件”と考えられています。内覧会に出席した報道関係者が特に注目したのは販売価格です。
三菱地所レジデンスの責任者は、マンション住戸の最低価格は1億2000万円台(専有面積56.44平方メートル)、最高価格は7億1000万円台(同215.30平方メートル)と発表しました。
最高価格が7億1000万円台というのは、大きなニュースであることは間違いありません。
(外観完成予想図。データは三菱地所レジデンスの提供)
【物件概要】
所在地─東京都渋谷区南平台町12-2(地番)
交通─JR山手線「渋谷」駅徒歩7分
敷地面積─3352.32平方メートル
用途地域─第二種住居地域
構造・規模─鉄筋コンクリート造・地上10階地下1階建
総戸数─100戸(事業協力者住戸30戸含む)
専有面積─56.44〜215.30平方メートル
間取り─1LDK〜3LDK
販売価格─1.2億円台〜7.1億円台(予定)
売主─三菱地所レジデンス、大林新星和不動産、東急不動産
設計・施工─東急建設
管理─三菱地所コミュニティ(委託予定)
竣工─2019年11月中旬(予定)
引渡─2020年01月中旬(予定)
第1期販売─2018年10月下旬開始(予定)
●●●肩掛けカバンに入れた3種類の資料
「モデルルーム内覧会」が終わった後、私は渋谷区南平台町にある「ザ・パークハウス渋谷南平台」の建設現場に向かいました。マンションの敷地周辺を歩き回って、現地の様子を詳しく観察するためです。
マンションの「案内図」、および土地の高低を示す「イメージイラスト」を以下に示しました。
(ザ・パークハウス渋谷南平台の「案内図」。データは三菱地所レジデンスの提供)
(土地の高低を示す「イメージイラスト」。データは三菱地所レジデンスの提供)
私は肩掛けカバンの中に、3種類の資料を入れていました。
(A)「ザ・パークハウス渋谷南平台」の『パンフレットおよび図面集』
(B)日経BPムック『東京大改造マップ──2018〜20XX』
(C)『忠犬ハチ公像に関するメモや資料』
Aはいいとして、なぜBとCなのでしょうか。
それは、「ザ・パークハウス渋谷南平台」の『パンフレット』が、渋谷エリアでは現在、“東京大改造”の流れを受けて多数の再開発プロジェクトが進行していることを説明。マンションの特徴や将来性を把握するためには、再開発プロジェクトについて理解してほしいと促しているからです。
そのためB『東京大改造マップ』を購入して、事前に詳しく読み込みました。すると、どうしても忠犬ハチ公像の過去・現在・未来について、考えたくなってしまいました。順に説明していきましょう。
●●●『東京大改造マップ──2018〜20XX』
2020年の東京オリンピック、そしてさらなる未来に向けて、東京は大規模な都市改造の時代を迎えています。その全貌をとらえるため、日経BP社は2014年にムック『東京大改造マップ──2014〜2020』を発行しました。
ムックは好評のため、『2015〜2020』『2016〜2020』『2017〜2020』と、続いています。
そして東京オリンピックが終わった2020年以降も、さらなる未来(20XX年)に向けて大改造が続くことがはっきりしたため、今年の発行号からタイトルが『東京大改造マップ──2018〜20XX』と改められました(下に表紙写真)。
同書が主要7エリアの1つとして注目しているのが「渋谷エリア」で、その開発を主導するのは東急電鉄および東急不動産などの各社です。
●●●「渋谷駅周辺開発全体図」に掲載された6大プロジェクト
「渋谷駅周辺開発全体図」を見てください(下の図)。
(この図は、東急電鉄および東急不動産が2018年3月に発行したニュースリリース、「渋谷駅周辺地区における再開発事業の進捗について」から引用)
<http://www.tokyu.co.jp/image/news/pdf/180307-a.pdf>
図に示したプロジェクトのうち、「渋谷ヒカリエ」(複合商業施設)と「渋谷キャスト」(ショップ、オフィス、シェアオフィス、カフェ、多目的スペース、広場、住居からなる複合施設)はすでに開業済みです。
また「②渋谷ストリーム」「③渋谷代官山Rプロジェクト」は2018年秋の開業です。
そして①「渋谷スクランブルスクエア」「④道玄坂1丁目駅前地区再開発」「⑤南平台プロジェクト」「⑥渋谷駅桜丘地区再開発」は2019年以降に順次、開業する予定です。
●●●「渋谷スクランブルスクエア」の完成イメージ
「渋谷エリア」の再開発プロジェクトのうち、最も大規模でかつ最も時間がかかるのは、JR渋谷駅と東横線渋谷駅の駅舎、東急百貨店東館・西館・南館などを建て替える「渋谷スクランブルスクエア」です。
(「全体完成イメージ」は、東急電鉄・東日本旅客鉄道・東京地下鉄が2017年8月に発行したニュースリリース、「渋谷駅街区開発計画の施設名称が渋谷スクランブルスクエアに決定」から引用)
< https://www.tokyu.co.jp/file/170801.pdf >
「渋谷スクランブルスクエア」で最も目立つのは、図の中央部に立つ東棟で、渋谷エリアでは最高層の47階建て(約230メートル)になります。開業は2019年度の予定です。
図には「ハチ公前広場」という文字が描かれています。ただし、残念なことに、忠犬ハチ公像の姿は描かれていません。
●●●忠犬ハチ公像の過去・現在・未来
私は「ザ・パークハウス渋谷南平台」の敷地周辺を歩き回った後、ハチ公前広場を訪れてハチ公の銅像をゆっくり眺めました。ハチ公の人気は今では国際的です。銅像の前では、海外から訪れた人たちが、次々に記念写真を撮影していました。
それにしても、ハチ公は実に人懐っこい顔をしていますね。
青森県の鰺ヶ沢町で飼育されている“ブサかわ犬”として有名な「わさお」や、ロシアの女子フィギュアスケート選手のアリーナ・ザギトワさんに贈られた「マサル」もまた、人懐っこい顔をしています。秋田犬は大事に育てられると、それが表情に出てくるようです。
私は肩掛けカバンの中に入れてある、「忠犬ハチ公像に関するメモや資料」の内容を思い浮かべました。地元の渋谷区や、ハチ公の出身地である秋田県大館市が作成した資料、それに新聞の記事などです。
【忠犬ハチ公像の歴史──『渋谷区勢概要・平成29年版』から引用)】
忠犬ハチ公は、かわいがってくれた飼主の上野英三郎博士が、大正14年(1925年)5月に亡くなったのも知らず、渋谷駅前で10年近く主人の帰りを待ち続けた秋田犬です。
この美談を後世に永く伝えたいという有志の人々によって、ハチ公がまだ生きていた昭和9年(1934年)4月にハチ公の銅像が完成。その除幕式にはハチ公自身も参加しました。
その後、第二次世界大戦が深刻化したのに伴って、金属回収策のために、ハチ公の銅像も供出されてしまいました。そして現在の銅像は、戦争が終わった昭和23年(1948年)に再建されたものです。
それから41年後の平成元年(1989年)に、散策路計画の一環として美術館ルートの駅前整備が行われ、それに伴いハチ公の銅像は渋谷駅の方向に向きを変えました。
●●●忠犬ハチ公像が「東の方向」を向かなければならない理由
(上の図は、東急電鉄のウェブサイト「渋谷駅広域図・渋谷駅周辺図」から引用)
< http://www.tokyu.co.jp/tokyu/shibuyachikamichi/index/pdf/floormap.pdf >
図ではハチ公像の向きに注目して下さい。ハチ公は上野英三郎博士が帰るのを待っているワケですから、渋谷駅ハチ公口の方向(東の方向)を向いていなければなりません。
しかし、昭和23年(1948年)に再建されたとき、「どういうワケか、渋谷駅ハチ公口(東の方向)を向いていなかった」というのです。これではハチ公は上野英三郎博士を迎えることはできません。ハチ公もずいぶん戸惑ったことでしょう。
それから41年後の平成元年(1989年)に、ハチ公像はようやく正しい方向、すなわち渋谷駅ハチ公口の方向(東の方向)を向くことができたのです。
●●●工事の最中および終了後に「ハチ公像」はどうなる?
私の現在の関心は、「渋谷スクランブルスクエア」を工事している最中、あるいは工事が終了した後にハチ公像がどうなるのか、ということです。
4年前の産経ニュース、および今年1月の東京新聞の記事を要約しましょう。
【産経ニュース(2014年8月8日)】
<https://www.sankei.com/region/news/140808/rgn1408080101-n1.html>
「ハチ公どうなる?」──
7月31日に発表された再開発完成イメージ模型には、ハチ公像がないことが判明。「ハチ公はどうなる?」という声が出始めた。
同駅西口のハチ公前広場は渋谷区の所有。渋谷区の担当者は、「渋谷の象徴なのでなくすことは絶対にしないが、工事中にどのようにして保存するかは未定、再設置場所も決まっていない。一時撤去するのか、位置を固定したまま再開発工事をするのか。開発事業者と話し合う」という──。
このように今から4年も前から、ハチ公の銅像がどうなるのか、心配する声が出ていたことが分かります。
【東京新聞 TOKYO Web(2018年1月81日)】
<http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201801/CK2018010102000125.html>
「渋谷ハチ公、里帰りするかも」──
東京・渋谷の「忠犬ハチ公像」が2020年の東京五輪・パラリンピック後に一時、現在の設置場所から移転する見通しとなったことが分かった。渋谷駅西口の再開発工事の過程で移転が避けられなくなるとみられるためで、ハチ公の生まれ故郷の秋田県大館市は管理する渋谷区に、その間の「里帰り」を求めている。
2027年度にかけ予定される渋谷駅西口再開発で、ハチ公前広場は今の1.5倍の面積に広がる計画。東急百貨店東横店解体後の工期後半に移転を迫られそうという。渋谷区は工事後に「新しい広場の一番良い場所」へ戻す方針だが、大館市は工事期間中の誘致を要望。
渋谷区の長谷部健区長は「関係者との協議が必要」としながらも「できるだけ要望に沿いたい」と話し、ハチ公像を貸し出す場合は「『ハチ公はただ今、散歩中』とPRしたらどうか。ホログラムでハチ公像を立体的に投影するのも渋谷らしい」と語った──。
この記事によると、2020年の東京五輪・パラリンピック後に、ハチ公の銅像はどこかに移転。その有力候補地は、ハチ公の生まれ故郷である秋田県大館市です。そして渋谷に戻ってくる時期は、遅ければ工事が終了する2027年度になるかもしれません。
ハチ公が“散歩”に出かけた後のハチ公前広場は、ずいぶん寂しくなることでしょうね。
(データは三菱地所レジデンスの提供)
最後に、2027年度頃の渋谷駅周辺の風景です。“散歩”から戻って来たハチ公の銅像は、どこに置かれ、どの方向を向くことになるのでしょうか。
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細野 透(ほその・とおる)
建築&住宅ジャ─ナリスト。
建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。
著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。