細野透の「赤信号・黄信号・青信号」 不定期
細野 透

[第22号]分譲マンションに関わる「2018年の10大ニュース」

2018年12月03日

1位「KYB検査データ改ざん」、10位「マンションマエストロ」検定

 毎年12月になると、新聞、雑誌、テレビなどの各メディアは、「今年の10大ニュース」を報道します。それにならって、「分譲マンションに関わる今年の10大ニュース」を、10位、9位、・・・、1位という順番で並べてみました。

2018年10大ニュース

 10位─「マンションマエストロ」検定制度の設立

 9位─「不動産テック協会」設立、不動産とテクノロジーの融合を促進

 8位─「羽田新飛行ルート」で心配されるマンションへの騒音

 7位─巨大な街「HARUMI FLAG」、初めは東京五輪選手村、五輪後は一般向け

 6位─「京都の乱」でマンション陣営がホテル陣営に敗北

 5位─リクルート「住みたい街ランキング」のめまぐるしいトップ交代

 4位─マンション管理人とコンシェルジュの人手不足が深刻化

 3位─「シェアハウス・かぼちゃの馬車」と「スルガ銀行の危ういビジネスモデル」

 2位─積水ハウスから「約55億円をだまし取った地面師グループ」を警視庁が逮捕

 1位─油圧機器メーカーのKYBによる「免震・制震装置の検査データ改ざん」

 以下、個々に詳しく説明しましょう。

 

10位─「マンションマエストロ」検定制度の設立


(画像データは東京カンテイの提供)

 不動産情報サービスの「東京カンテイ」は、2018年10月に、「マンションマエストロ」検定制度を設立しました。
 
 (1)「マエストロ」とは、ある分野で特に優れている人、という意味の敬称です。

 (2)「マンションマエストロ」検定は、マンションの購入を検討している「一般人」、およびマンション売買に携わる不動産業界や金融機関の「不動産担当スタッフ」を対象にしています。

 (3)一般人に対しては、「マンションに関する基本的な知識や情報」「自分にとって最適なマンションを探しかつ納得のいく売買を行う能力」を、身に付けているかどうかを検定します。

 (4)第1回『マンションマエストロ』検定試験は、2019年2月24日に実施する予定です。その運営は、書籍や雑誌の大手取次会社として知られる、「日本出版販売(日販)」が担当します。

 チャレンジしてみたいという方は、日販の「マンションマエストロ検定」公式サイトへどうぞ。
  <https://www.kentei-uketsuke.com/mansion/>

 

9位─「不動産テック協会」設立、不動産とテクノロジーの融合を促進

 一般社団法人の不動産テック協会が、2018年9月に設立されました。

 不動産とテクノロジーの融合を促進し、不動産に係る事業および不動産業の健全な発展を図り、国民経済と国民生活の向上および公共の福祉の増進に寄与することを目的としています。

 テック協会は「不動産カオスマップ」を定期的に作成しています。以下のURLは、その2018年11月28日版(最新版)にリンクしています。
 <https://retechjapan.org/retech-map/>

 この中に、皆さんが知っている会社名やサービス名は、どれくらいありますか。なお、「物件情報・メディア」というグループの中に、「住まいサーフィン」の名前も見えます。

 

8位─「羽田新飛行ルート」で心配されるマンションへの騒音

 羽田空港の飛行ルートはこれまで、安全や騒音を考慮して、「海から入り、海へ出る」ルートを利用してきました。しかし、増便を理由にして、2020年までに「都心を飛行する」ルートに変更する予定になっています。

羽田空港における現行の滑走路運用・飛行経路
(画像データは国土交通省「羽田空港における現行の滑走路運用・飛行経路」から引用)

 都心ルートの場合、品川区大井町から羽田空港にかけて、東京タワーより低い300メートル以下を飛ぶため、80デシベルの騒音にさらされることになります。したがって、戸建て住宅に比べて背の高いマンションに、悪い影響が出るのではないかと心配されています。

 

7位─巨大な街「HARUMI FLAG」、初めは五輪の選手村、五輪後は一般向け

 今年10月、「HARUMI FLAG(晴海五丁目西地区第一種市街地再開発事業)」の内容が公表されました。これは、2020年に開催される東京五輪では選手村として使われ、五輪後は一般向けに転用される「巨大な街」です。

 約13ヘクタールの広大な土地に5つの街区で構成され、5632戸の分譲住宅・賃貸住宅、商業施設、保育施設、介護住宅などが建設され、人口は約1万2000人の予定です。

HARUMI FLAG
(画像データは、「HARUMI FLAG広報事務局」の提供)

 

6位─「京都の乱」でマンション陣営がホテル陣営に敗北

 「京都の乱」とは、京都を訪れる観光客が増加した結果、ホテル不足が深刻化し、ホテル陣営とマンション陣営で、建設用地の取り合いになっていることです。

京都の乱

 そのため、都心の中京区や下京区などでは、路線価が20%も高騰。一般的には、ホテルの方が利益率が高いので、用地の取り合い合戦でマンション陣営が敗北し、マンション建設計画が激減状態に陥りました。

 不動産経済研究所が発表した「近畿圏のマンション市場動向」によると、京都市の分譲マンション発売戸数は、次のような経過をたどっています。

 2015年──2317戸
 2016年──1384戸
 2017年──1220戸
 2018年──1000戸前後?(10月末時点で770戸)

 京都市の分譲マンションは、京都市に住む市民だけではなく、首都圏や近畿圏の富裕層にも人気があります。しかし、発売戸数がこれだけ激減しては、購入は難しくなりそうです。

 なお、「京都の乱」というネーミングは、2016年に出版されてベストセラーになった、呉座勇一著『応仁の乱─戦国時代を生んだ大乱』(中公新書)をヒントにしたものです。

 

5位─リクルート「住みたい街(駅)ランキング」のめまぐるしいトップ交代

 リクルートが毎年発表する「住みたい街(駅)ランキング」は、マンション・デベロッパーおよびマンションを購入したい人の両者にとって、貴重な資料になります。それは、ランキングの上位にある街の方が、下位にある街よりも、資産面で有利になるケースが多いからです。

 最近、3年間の「関東─住みたい街(駅)ランキング」を表にまとめてみました。

関東─住みたい街(駅)ランキング

 ランキング1位は、かつて吉祥寺であることが多かったのですが、最近は2016年─2位、2017年─1位、2018年─3位と、不安定になってきました。

 すなわち、「住みたい街(駅)ランキング」も何年間分かを眺めて、その経緯を慎重に検討しなければならない時代になった、ということなのです。

 

4位─マンション管理人とコンシェルジュの人手不足が深刻化

 分譲マンションの快適さは、マンション管理人やコンシェルジュによって、支えられている面があります。しかし日本は今、深刻な人手不足に悩んでいます。幼稚園・保育園、高齢者施設、外食チェーン、宅配業界、建設業界──。多くの業界から悲鳴が聞こえてきます。

 マンション管理会社は今後、マンション管理人やコンシェルジュを、きちんと確保できるのでしょうか。

 そういう状況の中、東洋経済オンラインに、衝撃的な記事が掲載されました。記事のタイトルは「マンション管理人の人手不足がヤバすぎる、時給3割増でも集まらない」。次のように指摘しています。

(1)都心5区の管理人の時給は、数年前は1000円以下だったのに、今や1200〜1300円。ある管理会社はそれでも、物件に必要な管理人が常に15%程度不足している。

(2)企業の定年延長、再雇用の動きが顕著となり、応募者の数自体が減っている。そのため管理人の定年を65歳から70歳に引き上げたが、これは一時的なカンフル剤にすぎない。

(3)最近では、管理人は高齢者をサポートし、命を守る役割まで担うようになっている。人が集まらないのは、「責任は重いのに、待遇は良くない」という側面もある。

 この記事は、マンション管理人を確保する「仕組み」そのものが崩れようとしている、と激しい警鐘を鳴らしているのです。考えさせられますね。マンション管理人の仕事に着いては、以下の書籍が参考になります。私も読みました。

書籍

 

3位─「シェアハウス・かぼちゃの馬車」と「スルガ銀行の危ういビジネスモデル」

 サブリース形式によって、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営するスマートデイズが、2018年4月上旬に経営破綻しました。負債総額は約60億円とされています。

 スマートデイズは、「高い家賃を30年間保証する」として会社員などを勧誘し、シェアハウスを建設させました。その数は845棟(1万1259室)、オーナーは約700人とされます。

 しかし実際問題として、賃料が相場より高すぎたため、入居者は余り集まりませんでしたた。その後、家賃を低減するなどしたのですが、それでも入居者は増えませんでした。

 オーナー(会社員や地主など)は、スマートデイズの「家賃を保証する」という言葉を信用して、スルガ銀行から1棟当たり1億円前後の融資を受けて住宅を建設していました。

 その金利は数%なので、借入期間を30年として1億円の融資を受けた場合、毎年数百万円、30年間の総額では1億2000万円〜1億5000万円を返却することになります。

 しかし、スマートデイズから支払われる家賃は、2017年10月にいきなり減額されました。続いて2018年1月には、家賃がまったく支払われない事態に陥りました。さらに4月上旬には、スマートデイズが経営破綻してしまいました。

 オーナーの立場からすると、「家賃収入はゼロ」になったのに、スルガ銀行に30年かけて「毎年数百万円」ずつ返却し続けなければなりません。これはまさに「泣きっ面に蜂」です。

 金融庁は今年10月5日、スルガ銀行に対し、「融資の審査書類の偽造や改ざんに行員が関与し、多額の貸し付けを行っていた」などとして、行政処分を課しました。

 「10月12日から来年4月12日までの6カ月間、投資用不動産向け融資および自宅部分が建物の50%を下回る住宅ローンの新規取り扱いを停止するように命じる」という内容です。

 スルガ銀行はこれまで、「地方銀行の勝ち組」という評価を受けていました。しかし、今回の事件発覚後は、「危ういビジネスモデル」の地銀として、将来が危ぶまれています。

スマートデイズ
(画像はスマートデイズの「ウェブサイト」トップページ。<https://www.smt-days.co.jp>)

 

2位─積水ハウスから「約55億円をだまし取った地面師グループ」を警視庁が逮捕

 この事件は芝居にたとえると「第一幕」が終わると、「第二幕」を迎え、さらに「第三幕」が続くというように、ドラマチックに展開してきました。

 第一幕は、2017年8月2日です。積水ハウスはニュースリリースで、「マンション用地の取得にからみ、63億円の詐欺被害にあった」と公表しました。

 第二幕は、2018年2月20日です。日本経済新聞は「和田勇会長は退任ではなく、阿部俊則社長らによる解任だった」とスクープしました。

 2018年1月24日、和田会長は取締役会に、「マンション用地取得の責任者である阿部社長の退任案」を提出しましたが、否決されました。逆に、阿部社長が取締役会に「和田会長の退任案」を提出したところ、可決されてしまいました。すなわち、一種のクーデターが行われていたのです。

 その後に、新会長には阿部俊則社長が昇格し、和田勇氏は相談役に退きました(現在は同社を退任)。

 第三幕は、2018年10月16日に、積水ハウスから「約55億円をだまし取った地面師グループ」を警視庁が逮捕したことです。

 積水ハウスが「63億円の詐欺被害」とリリースしているのに、警視庁は「約55億円」としています。8億円の差にも、少し複雑な理由があるようです。

 さて、詐欺の舞台になったのは、JR山手線の五反田駅から徒歩3分の場所にある、休業した旅館「海喜館」が立つ土地です。広さは約2000平方メートル。その朽ちた印象から「怪奇館」と呼ばれることもあるそうです。

 この土地を巡って、地面師が暗躍している事実に、多くの不動産会社が気づいていました。しかし、どういうワケか、積水ハウスだけはそうと気づかずに、地面師の誘いに乗ってしまいました。

 しかも海喜館の所有者からは、積水ハウス宛てに、「あなた方はだまされていますよ」という趣旨の警告書も届いていました。けれども、驚いたことに、積水ハウスはそれを無視したそうです。

地面師

 この事件は次に、第四幕を迎えることになりそうです。それは、詐欺事件について積水ハウスの個人株主が、阿部俊則会長などを相手にして、損害賠償を求める訴訟を提起しているからです。

 積水ハウスの分譲マンションのブランド名は「グランドメゾン」。一連の事件で、ブランドが大きく傷ついた感じで、入居者が気の毒です。

 

1位─油圧機器メーカーのKYBによる「免震・制震装置の検査データ改ざん」

 秋も深まった10月後半、油圧機器メーカーのKYBによる「免震・制震装置の検査データ改ざん」事件が発覚しました。同社の装置が使われている建物は、全国で986件に達しています。

 その内訳は住宅251件、医療・福祉施設157件、事務所148件、庁舎104件など。住宅の中には分譲マンションが多数含まれていますが、その名前は公表されていません。

 分譲マンションの被害は、大きく3つのケースに分かれています。

 A「建物が完成して、すでに入居済み」
 B「建物を施工中で、すでに販売活動を開始している」
 C「建物の設計を終了していた」

 このうち、被害が最も深刻なのはA「すでに入居済み」のケースです。検査データが改ざんされていたマンションでは、不具合な免震装置や制震装置の交換工事をする必要があります。

 しかし免震装置は建物の地下、あるいは地上1階か2階の上部に取り付けられるケースが多いため、工事の最中には、1階のエントランス付近が混雑状態になると思われます。

 また制震装置は「各階の骨組みの中」に組み込まれるケースが多いので、場合によっては各階の壁を解体する必要があります。そのため、一時的な退去が必要になるかもしれません。

 B「建物を施工中で、すでに販売活動を開始している」ケースでは、マンションデベロッパー各社は、販売活動を中止する対策を講じているようです。

 C「建物の設計を終了していた」ケースでは、再設計あるいは建設延期などの処置が必要です。

 私は2005年11月に、姉歯元建築士などによる耐震偽装事件が発覚したとき、日本経済新聞社から『耐震偽装』と題する本を出版しました。

耐震偽装

 同書が1つのきっかけになって、建築構造の分野で欠陥問題が発生すると、新聞社やテレビ局の記者が連絡してきます。

 私は今回、『日本経済新聞』の記者の取材に対して、次のようにコメントしました。

 「建設業界および機器メーカーとも人手が足りない中、現場が疲弊して品質管理に手が回らないというのが根本的な背景。品質管理を人工知能(AI)化するなど、新たな仕組みを構築する必要もある」。

 

 

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細野 透(ほその・とおる)
建築&住宅ジャ─ナリスト。

 建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

 著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。