細野透の「赤信号・黄信号・青信号」 不定期
細野 透

[第30号]『不動産業ビジョン2030』が示す「マンションの過去・現在・未来」

2019年08月02日

リーマンショックで、「新設住宅着工戸数」が100万戸台を下回る

 国土交通省は今春、27年ぶりに『不動産業ビジョン2030』をまとめました。今回はそのうち、「分譲マンションの過去・現在・未来」に、焦点を合わせたいと思います。

新設住宅着工戸数の推移

 初めに、昭和24年度(1949年度)から平成29年度(2017年度)までの、「新設住宅着工戸数の推移」を抑えておきましょう。

 上の図に示すように、新設住宅着工戸数は、昭和42年度に初めて「100万戸」を突破しました。それ以降、景気の影響などにより増減を繰り返しながらも、平成20年度までは100万戸台を維持してきました。

 しかし、平成20年9月のリーマンショックにより大幅に減少。平成21年度には、42年ぶりに100万戸の大台を割って、70万戸台に落ち込んでしまいました。

 それ以降は少し持ち直し、平成29年度には94万6000戸になりました。

(※注)画像データはすべて、国土交通省の報道発表資料「不動産業ビジョン2030参考資料集」から引用。

 

リーマンショック以降は、戸建てがマンションより「やや優位」

分譲住宅着工件数の推移
 
 分譲住宅に限ると、上の図に示すように、平成1年度から平成20年度までは、分譲マンションの着工件数(戸数)が、分譲戸建ての着工件数(戸数)を大きく上回っていました。

 しかし、平成20年9月のリーマンショックによって、分譲マンションの着工件数が大幅に減少。平成21年度以降は、分譲マンションの着工件数が、分譲戸建ての着工件数を下回る状態が続いています。

 またリーマンショック以降、分譲マンションは伸び悩んでいるのに対して、分譲戸建ては安定した増加傾向を示しています。

 

首都圏では「新築マンション発売戸数」が減少、「中古マンション成約件数」が増加

首都圏における「中古マンションの成約件数」と「新築マンションの新規発売戸数」

 首都圏における「中古マンションの成約件数」と「新築マンションの新規発売戸数」を比較すると、上の図に示すように、初めは「新築マンションの発売戸数」が圧倒的に優位でした。

 しかし平成28年に、首都圏における中古マンションの成約件数(3万7189戸)が、初めて新築マンションの発売戸数(3万5772戸)を逆転しました。

 そして平成30年もまた、新築マンション発売戸数は3万7132万戸、中古マンション成約件数は3万7217件でした。すなわち、中古マンションの成約件数が新築マンションの発売戸数を、3年連続で上回ったことになります。

 

新築マンションに対する「消費者ニーズの変化」

暮らし方のイメージの変化

 上の図の左側の表は「暮らし方のイメージ・上位20項目(2018年度)」です。その第1位は、「仕事や通勤に便利」(37.2%)です。次いで、第2位「子育て・教育がしやすい」(35.3%)、第3位「日々の生活がしやすい」(34.5%)と続いています。

 次に、上図の右側のグラフは「「暮らし方のイメージの変化」です。2008年から2018年と時代が進むにつれて、青色の第1位「仕事や通勤に便利」、黄色の第2位「子育て・教育がしやすい」、緑色の第3位「日々の生活がしやすい」などへの期待が増えています。

 またピンク色の「共働きがしやすい」は、2008年には5.7%で第26位でしたが、2018年には11.1%で第13位(グラフでは14位)へと大きく出世しています。

 

分譲マンションストック総数は約644万1000戸

マンションストック総数

 平成29年末時点では、上の図に示すように、分譲マンションストック総数は約644万1000戸に達しました。マンションの居住人口は約1533万人と推計されますので、約1億2700万人国民の12%がマンション住まいということになります。

 

「老朽化マンション」が急増する見込み

築年数別マンション戸数の将来推計

 築後40年超のマンションは、上の図に示すように、2017年時点で73万戸に達しました(棒グラフの水色5万戸と赤色68万戸の合計)。

 そして10年後の2027年には185万戸、20年後の2037年には352万戸になるなど、今後、老朽化マンションが急増する見込みです。

 

2040年には約4割が単独世帯、夫婦と子は約2割に縮小

世帯類型別世帯数の推移

 今後、「少子高齢化」と「人口減少」が続くと、家族(世帯)の姿はどのようになるのでしょうか。

 総世帯数は、上の図に示すように、2015年の「5333万世帯」から、2023年の「5419万世帯」まで増加し、それ以降は減少に転じる見込みです。また世帯タイプ別には、以下のようになる見込みです。

 「単独」世帯
   2020年「1934万世帯」⇨ 2040年「1994万世帯」(全体の39.3%)
 「夫婦のみ」世帯
   2020年「1110万世帯」⇨ 2040年「1071万世帯」(全体の21.1%)
 「夫婦と子」からなる世帯
   2020年「1413万世帯」⇨ 2040年「1182万世帯」(全体の23.3%)
 「ひとり親と子」世帯
   2020年「502万世帯」 ⇨ 2040年「492万世帯」(全体の9.7%)
 「その他」世帯
   2020年「451万世帯」 ⇨ 2040年「335万世帯」(全体の6.6%)

 これによれば、2040年には「単独」が4割弱、「夫婦と子」および「夫婦のみ」がそれぞれ2割強、「ひとり親と子」および「その他」が1割弱という構成です。

 

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細野 透(ほその・とおる)
建築&住宅ジャ─ナリスト。

 建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

 著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。