細野透の「赤信号・黄信号・青信号」 不定期
細野 透

[第32号]新築分譲マンションの「販売価格と専有面積の法則」を学ぶ(入門編)

2019年10月02日

価格と面積「8つのパターン」

 今回は、新築分譲マンションの「販売価格と専有面積の法則」について、レクチュアすることにしましょう。この「法則」は、分譲マンションのデベロッパーだけではなく、ユーザーにとっても大切な情報ですので、丁寧に説明したいと思います。

 初めに私が描いた1枚の図を見て下さい。この図の縦軸は新築分譲マンションの「平均販売価格(万円)」、横軸は「平均専有面積(平方メートル)」を意味しています。

 この図は情報量が多いため、理解するのが少し大変かもしれません。よって❶から❽までの各パターンを、個別に見ていくことにしましょう。

 

好景気時と不景気時のパターン

 好景気時には上図のように、「分譲マンションの販売価格が上がり、専有面積も増える」ことになります。これは直感的に理解できますね。

 例えば1984年〜1986年、2012年〜2014年などがそうでした。

 一方、不景気時には上図のように、「販売価格が下がり、専有面積も減る」。これも直感的に理解できますね。

 最近でいうと、リーマンショックの影響を受けた、2007年〜2009年などがそうでした。

 

「不思議な右矢印」のパターン

 次に、「不思議な右矢印」のパターンについて説明しましょう。

 このパターンは、上図のように「販売価格が変わらないのに、専有面積が増える」という、不思議な現象です。

 これは、景気が比較的いい時代に設計されたため、「専有面積を増やし」かつ「販売価格もアップする」予定でした。しかし、プロジェクトが進行する途中で景気が落ち込んだため、「価格をアップできなかった」ゆえの結果です。

 例えば2000年〜2002年には、東京圏では販売価格がほぼ横ばいだったにもかかわらず、専有面積が約3平方メートルほど増えています。

 

「不思議な左矢印」のパターン

 次に「不思議な左矢印パターン」とは、上図のように「販売価格が変わらないのに、専有面積が減ってしまう」という、ユーザーにとっては迷惑なタイプです。

 これは、景気が比較的悪い時代に設計されたため、「販売価格をダウンし」かつ「専有面積も減らす」計画としてスタートしました。しかし、プロジェクトの途中で景気が良くなったため、「販売価格のダウン」を撤回したゆえの結果です。

 例えば2002年〜2003年には、東京圏では販売価格がほぼ横ばいだったにもかかわらず、専有面積は5平方メートルも減っています。

 

バブル全盛期のパターン

 続いて、「バブル全盛期のパターン」です。この時期には上図のように、「販売価格だけが、一気に上がる」という、昇り龍に似た現象が観察されました。

 実際問題として、1987年〜1991年には、東京圏では販売価格が一気に2420万円も高騰したにもかかわらず、専有面積は年によって少し増えたり減ったりしていました。その結果、差し引きではわずか約3平方メートル増えた程度でした。

 

バブル崩壊期のパターン

 次に「バブル崩壊期のパターン」を見てみましょう。この時期には上図のように、「販売価格だけが、一気に下がる」という、降り龍にも似た現象が観察されました。

 そのため1991年〜1993年には、東京圏では専有面積がほぼ変わらないのに、販売価格が一気に3400万円も暴落するという、デベロッパーにとっては眼も当てられない事態になってしまいました。

 

バブル全盛期直前のパターン

 ところで「バブル全盛期」の直前と、「バブル崩壊期」の直後には、通常とは違った「異常なパターン」が観察されました。

 まず「バブル全盛期直前のパターン」です。この時期には上図のように、「販売価格は上がるのに、専有面積が減る」という、異常な現象が観察されました。

 これは、バブルの気配を嗅ぎ付けて「土地が急激に高騰し始めた」にもかかわらず、それを「マンション販売価格にそのまま反映させにくい状況があったため、代わりに専有面積を減らした」結果です。

 それゆえに、1986年〜1987年には、東京圏では販売価格が1540万円も高騰したのに、専有面積が約5平方メートルほど減少するという、おかしな事態になりました。

 

バブル崩壊期直後のパターン

 続いて「バブル崩壊期直後のパターン」です。バブル崩壊期が終わったばかりで、まだ経済に勢いがない時期だったため、上図のように「販売価格は下がるのに、専有面積が増える」という異常な現象が観察されました。

 この時期には、バブルの終焉を実感して「土地が急激に暴落し始めた」ため、「専有面積を増やすことが可能」になりました。

 けれども、その一方には「販売価格を抑えなければ売れない」という、厳しい現実がありました。

 それゆえに1993年〜1995年には、東京圏では販売価格が760万円も下落したのに、面積が約7平方メートルも増加するという、異常な事態になってしまったのです。

(※注)次回の「応用編」に続く

 

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細野 透(ほその・とおる)
建築&住宅ジャ─ナリスト。

 建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

 著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。