細野透の「赤信号・黄信号・青信号」不定期

[第34号]大地震や大水害で経験する「松・竹・梅」の生活イメージ

2019年12月13日

細野 透 ( ほその とおる )

被災時における「松(上級・グレード3)」の生活

 大地震や大水害に襲われると、建物が被害を受けるのに加えて、電気やガスがストップし、上水や下水が使えなくなるため、生活レベルが急激にダウンしてしまいます。

 国土交通省・住宅局・市街地建築課マンション政策室は、平成24年(2012年)に、「持続可能社会における既存共同住宅ストックの再生に向けた勉強会」を開催。被災時における分譲マンションの生活を、「松(上級・グレード3)」「竹(中級・グレード2)」「梅(下級・グレード1)」の3段階に整理しています。

 資料のURL<https://www.mlit.go.jp/common/000227566.pdf>

 まず、「松(上級・グレード3)」の生活イメージを、3枚の図を使って説明したいと思います(添付した画像はすべて国交省の資料から引用)。

 「松(上級)」では、共用部の照明とコンセントが全て利用可能です。またエレベーターは2台が使用可能です。

 しかし、各住戸では廊下および1つの部屋の照明が点灯するだけでなのに加えて、コンセントは1カ所だけ使用可能です。したがって、1つの部屋の中で「テレビを見る、携帯電話の充電をする、冷蔵庫を冷やす、電子レンジを付ける」などのうち、どれか1つを選択しなければなりません。

 一方、上下水は異常がないため、水道とトイレを利用できます。そしてガスも利用できます。さらに、居住者全員分の備蓄もあるため、食料と飲料水(ペットボトル)を入手可能です。

 すなわち、家族全員が自分の住戸の中で、何とか生活を続けていくことが可能です。

 

被災時における「竹(中級・グレード2)」の生活

 

「竹(中級)」では、共用部の照明とコンセントが全て利用可能です。またエレベーターは1台が使用可能です。

 しかし、各住戸では電気もガスも利用できません。その一方、上下水は利用可能です。また居住者全員分の備蓄もあるため、食料と飲料水(ペットボトル)を入手可能です。

 したがって、マンションの中を何とか移動できます。ただし、住戸の中では、家族全員がキャンプしているような状態で生活しなければなりません。

 

被災時における「梅(下級・グレード1)」の生活

「梅(下級)」では、共用部の非常照明と一部のコンセントが利用可能です。またトイレも利用できます。ただし、エレベーターは1台が一定時間のみ使用可能です。そのため、マンションの中を移動するのも大変です。

 そして、各住戸では電気・ガスを利用できないのに加えて、上下水道も利用できません。したがって、住戸の中で生活することは不可能です。

 

「生活継続可能日数」を増やすための条件

 以上のように、大地震や大水害に襲われると、例え建物が深刻な被害を受けなかったとしても、電気・ガス・上下水道などのライフラインがストップしてしまうと、マンションの中での生活が極めて困難になってしまいます。

 このような事態に、どのように対処すればいいのでしょうか。「持続可能社会における既存共同住宅ストックの再生に向けた勉強会」は、次のような図を提示しています。

 この図は、地震や水害によってマンションが構造的な被害を免れたとしても、居住者が生活を継続していく日数を増やすためには、まず「電力の確保」「上水の確保」「備蓄」が欠かせないことを強調。

 次いで「下水の確保」「ガスの確保」「エレベーターの運行確保」「建築二次部材の耐震」に触れ、さらに「情報」にも言及しています。

 そして「電力の確保」のためには、「発電機用燃料の備蓄量増加、コジェネ、太陽光発電、非常用発電機の間欠運転、電力の二方向引き込み」などの方法があることを示しています。

 

大地震だけではなく大水害にも配慮した対策を

 国土交通省・住宅局・市街地建築課マンション政策室が開催した、「持続可能社会における既存共同住宅ストックの再生に向けた勉強会」の座長は、村上周三東京大学名誉教授が務めました。

 そして委員として次の9名が参加しました。

 伊香賀俊治・慶應義塾大学教授
 柏木孝夫・東京工業大学ソリューション研究機構先進エネルギー国際研究センター教授
 壁谷澤寿海・東京大学地震研究所教授
 河野守・東京理科大学教授
 小林重敬・東京都市大学教授
 ?橋紘士・国際医療福祉大学院教授
 野口貴文・東京大学准教授 
 深尾精一・首都大学東京教授
 南一誠・芝浦工業大学教授

 勉強会が行われたのは、2012年2月6日〜8月23日のことでした。思い起こすとその約1年前の2011年3月11日、東日本大震災が発生。東北地方だけではなく、関東地方のマンションも激しい揺れに見舞われました。

 勉強会の10名のメンバーが、「生活継続可能日数」「継続利用可能性」「生活継続の利便性」について提言したのは、東日本大震災の時に感じた強い問題意識によるのかもしれません。

 そして今年(2019年)、日本列島を縦断した台風19号および台風21号が引き起こした大水害によって、かなりの集合住宅(分譲マンション、賃貸マンション、団地の住棟・・・)が浸水の被害を受けました。状況は年ごとに厳しくなってきています。

 集合住宅の防災に携わる関係者には、大地震だけではなく大水害にも配慮した、「生活継続可能日数」「継続利用可能性」「生活継続の利便性」に配慮した対策を、早急に用意するように、強く希望したいと思います。

 

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細野 透(ほその・とおる)
建築&住宅ジャ─ナリスト。

 建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

 著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。