●●●「住宅ジャーナリスト」として真っ先に覚えた言葉
私は初め、「建築ジャーナリスト」としてスタートしました。しかし、2000年頃からは「住宅ジャーナリスト」にも枠を広げて、分譲マンションを取材対象に加えました。
その時、真っ先に覚えたのが、「1に立地、2に立地、3・4がなくて、5に立地」という言葉です。これは、どういう意味なのでしょうか。
実はこのコラムで前回(No35)、「不動産のプロが選んだ、30年後になっても、タワーマンションの資産価値が下がりにくい条件ベスト10」を紹介しました。以下のような内容です。
1位「通勤・通学に便利なターミナル駅の近く」★
2位「駅前が賑やかでショッピングモールやスーパーなどがあるエリア」★
3位「駅前の再開発が最近行われたか、10年以内に再開発が予定されているエリア」★
4位「売主のブランド、実績」
5位「医療、介護、福祉施設などが充実しているエリア」★
6位「歴史的背景によるブランド価値があるエリア」★
7位「施工会社のブランド、実績」
8位「学校、図書館・公共施設などが近くに多いエリア」★
9位「ゲストルーム、託児施設など、共用施設が充実している」
10位「設計事務所のブランド・実績」
ベスト10のうち、1位・2位・3位・5位・6位・8位の6項目に、★印をつけました。それらはすべて、「立地」に関するものであることがお分かりでしょうか。
記事のURL
<https://www.sumai-surfin.com/columns/aka-ao-ki-shingo/hosono-20200110>
このベスト10は、2019年に行われたアンケート調査の結果です。しかし、10年前に調査しても、20年前に調査しても、30年前に調査しても、40年前に調査しても、「立地に関する項目」が多数を占めていたと思われます。
そういう背景から生まれたのが、「1に立地、2に立地、3・4がなくて、5に立地」という言葉だったのです。
●●●『カンテイアイ100号、分譲マンション・データブック』
仕事で分譲マンションに関わる人なら誰でも知っている、「東京カンテイ」という会社があります。
同社は不動産専門のデータバンク兼シンクタンクで、金融・証券・不動産・建設などの民間企業をはじめ、裁判所や公社などの公的機関まで、実に全国3700法人の会員企業を抱えています。
その東京カンテイが2019年10月に、『カンテイアイ100号、分譲マンション・データブック、1956〜2018』と題する書籍を発行しました(非売品)。
全210ページで、「分譲マンション年代記」、「フロー編」、「ストック編」、「都道府県別マンションデータ」の4部から構成されています。
ちなみに、この『100号』は、東京カンテイが2019年10月2日に創立40周年を迎えるのを前に、その記念として発行された書籍です。
一読すると分かるのですが、仕事で分譲マンションに関わる人なら、「ぜひ、自分の手元に置いておきたい」と感じるような、充実した内容です。ただし、非売品ですので、入手は難しいと思われます。
それゆえに、今回はこの『カンテイアイ100号』から、住まいサーフィンの会員の皆さんが興味を持つ可能性が高い、2種類のデータを引用することにしましょう。
●●●バブルの時代に新築分譲されたマンションの「1戸平均価格・高額ランキング」
まず、A「バブルの時代(1986年12月〜1991年2月)に新築分譲されたマンションの【1戸平均価格・高額ランキング】」です。
『カンテイアイ100号』には1位から30位まで掲載されていますが、ここでは1位から5位までを引用します。
1位──有栖川ヒルズ
1戸平均価格・21億0315万円
東京都港区、広尾駅徒歩5分
1991年7月竣工、平均専有面積235.92㎡、平均坪単価2947万円
分譲会社・日計、施工会社・清水建設
2位──カスタム元麻布
1戸平均価格・15億9501万円
東京都港区、広尾駅徒歩9分
1991年2月竣工、平均専有面積260.64㎡、平均坪単価2023万円
分譲会社・福富、施工会社・三井建設
3位──ファイヴスター高輪 (グランフォルム高輪)
1戸平均価格・15億2747万円
東京都港区、泉岳寺駅徒歩4分
1989年3月竣工、平均専有面積221.76㎡、平均坪単価2277万円
分譲会社・リクルートコスモス、施工会社・竹中工務店
4位──赤坂新坂パークマンション
1戸平均価格・14億7160万円
東京都港区、青山一丁目駅徒歩7分
1990年12月竣工、平均専有面積199.95㎡、平均坪単価2433万円
分譲会社・三井不動産、施工会社・フジタ工業
5位──アルティーム原宿
1戸平均価格・14億0722万円
東京都渋谷区、北参道駅徒歩3分
1992年10月竣工、平均専有面積166.26㎡、平均坪単価2798万円
分譲会社・日本クリッシャン、施工会社・佐藤秀工務店
1戸平均価格は実に、「21億円〜14億円」です。バブルの時代の勢いを感じさせますね。
また1位〜5位までの平均坪単価は、2947万円、2023万円、2277万円、2433万円、2798万円です。すなわち「2000万円台を突破」しています。
そして立地を見ると、東京都港区が4件、東京都渋谷区が1件です。
●●●2000年以降に新築分譲されたマンションの「1戸平均価格・高額ランキング」
次に、B「2000年以降(2000年〜2018年)に新築分譲されたマンションの【1戸平均価格・高額ランキング】」です。
1位──プラウド六本木
1戸平均価格・3億9000万円
東京都港区、六本木駅徒歩4分
2017年9月竣工、平均専有面積143.25㎡、平均坪単価900万円
分譲会社・野村不動産他、施工会社・東急建設
2位──パークマンション千鳥ヶ淵
1戸平均価格・3億2962万円
東京都千代田区、九段下駅徒歩8分
2004年6月竣工、平均専有面積140.06㎡、平均坪単価778万円
分譲会社・三井不動産、施工会社・鹿島建設
3位──パークマンション南麻布
1戸平均価格・3億2803万円
東京都港区、広尾駅徒歩8分
2005年1月竣工、平均専有面積162.09㎡、平均坪単価669万円
分譲会社・三井不動産&住友商事、施工会社・前田建設工業
4位──クロイスターズ広尾
1戸平均価格・3億2263万円
東京都渋谷区、広尾駅徒歩8分
2004年3月竣工、平均専有面積189.44㎡、平均坪単価563万円
分譲会社・鹿島建設、施工会社・鹿島建設
5位──プラウド元麻布
1戸平均価格・3億0698万円
東京都港区、麻布十番駅徒歩9分
2010年12月竣工、平均専有面積141.14㎡、平均坪単価719万円
分譲会社・野村不動産、施工会社・竹中工務店
1戸平均価格は「3億9000万円〜3億0698万円」です。バブル時代の「21億円〜14億円」と比べると、大幅にダウンしています。
また、1位〜5位までの平均坪単価は、「900万円、778万円、669万円、563万円、719万円」です。バブル時代の「2947万円〜2023万円」と比べると、こちらも大幅にダウンしています。
そして立地を見ると、「港区3件、渋谷区1件、千代田区1件」です。これはバブル時代の「港区4件、渋谷区1件」と、余り変わらない感じです。
●●●東京都港区・千代田区・渋谷区が不動の3強
『カンテイアイ100号』の、A「1987年〜1992年【新築分譲マンションの1戸平均価格・高額ランキング】」には、全部で30物件が掲載されています。
その立地は次のようになっています。
港区14件、渋谷区8件、新宿区3件、
目黒区2件、千代田区1件、大田区1件、世田谷区1件
また、B「2000年〜2018年【新築分譲マンションの1戸平均価格・高額ランキング】」にも、全部で30物件が掲載されています。
その立地は次のようになっています。
港区14件、千代田区7件、渋谷区4件、
目黒区2件、品川区2件、世田谷区1件
このように、A「1987年〜1992年」とB「2000年〜2018年」を参考にすると、港区・千代田区・渋谷区が、「新築分譲マンションの立地としてはダントツの3強」といった感じです。
新しい駅が開設されたり、大規模な再開発事業が始まると、その周辺の価値が高まっていきます。それでも、港区・千代田区・渋谷区の地位が揺らぐことはないはずです。
そして、「1に立地、2に立地、3・4がなくて、5に立地」という言葉は、東京以外の地域でも、そのまま通用すると考えられています。
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細野 透(ほその・とおる)
建築&住宅ジャ─ナリスト。
建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。
著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。