細野透の「赤信号・黄信号・青信号」 不定期
細野 透

[第57号]「グッドデザイン賞」を受賞したマンションの特徴

2021年11月01日

2021年はマンションの当たり年?

 毎年10月の末頃に、「日本デザイン振興会」が主催する「グッドデザイン賞(GD賞)」の受賞者が発表されます。GD賞の受賞は名誉なことですので、マンション・デベロッパー各社の広報部門は、その発表を受けて競うようにして「プレスリリース」を公表します。

 2021年はマンションの当たり年だったのでしょうか。大手デベロッパーでは、三菱地所グループが8物件、野村不動産グループが6物件、三井不動産グループが5物件、住友不動産グループが5物件など、多数の物件がグッドデザイン賞を受賞しました。

 今回は主要各社のGD賞受賞作を紹介することにしましょう。

 

三菱地所「瀬田の杜Garden & Terrace」

 三菱地所グループはプロジェクト8件を受賞。そのうちマンション(共同住宅)としては、「瀬田の杜Garden & Terrace」(三菱地所レジデンス) があります。

 これは、駅から距離のある居住中心地域(世田谷区瀬田エリア)に位置する、複合用途の建物で2021年2月に竣工しました。

 このプロジェクトでは、単なる共同住宅の開発にとらわれずに、「地域の人々が集う空間」「様々なライフスタイルを選択できる空間」を創出することで、「街の拠点」を生み出しました。それにより、将来高齢化が進行し、人流が停滞する恐れのある街に「新陳代謝のきっかけを与えた」ことが評価されました。


(写真はプレスリリースから引用)

 

野村不動産「プラウド神田駿河台が“ベスト100”に選出」

 野村不動産グループは6件が受賞しました。そのうちマンション「プラウド神田駿河台」は、グッドデザイン賞1608件の中でも特に評価が高い、「ベスト100」に選出されています。

 審査委員は次のようにコメントしています。
「都市に最も多く建つ中大規模のビルディングタイプである集合住宅が、果敢に高層・木造ハイブリッドに挑戦していることを評価したい」。

「現時点では高価だが、工場での製作要素が増え、数も増えてくれば、短工期や職人の減少対応として価値も出るはずだ」。

「内装にも木を利用しているが、従来の分譲マンションは均質な品質の採用が重要であるため、 なかなか自然素材は利用されにくいはずであった。木造というコンセプトのもとに、分譲マンションにつきまとっていた常識が覆っていることも、その構造と同様に挑戦的である」。


(写真はプレスリリースから引用)

 

三井不動産「パークコート浜離宮ザタワー」など

 三井不動産グループは5件が受賞しました。「パークコート浜離宮ザタワー」、「hitoto 広島 The Tower」、 「一般社団法人幕張ベイパークエリアマネジメント」、「月夜のキッチン」、「食品ロス削減マルシェ」です。

 このうち、EMS・災害拠点を備えた複合開発「パークコート浜離宮ザタワー」を、審査員は次のように評価しています。

「コロナ禍で見直された一番の論点は、職住の近接、もしくは一体化であろう。しかし、ワーキングのスペースを住戸内につくるというような閉じた議論ではなく、集合住宅とオフィスビルが隣接することのメリットを端的に示したのが、この計画であると言えよう」。

「特に集合住宅のみの計画では採用が難しい、中圧ガスのコージェネレーションシステムの採用は、これからの職住一体開発の一つの可能性を開くものとして注目に値する。オフィスと集合住宅は、利用される時間帯なども異なるので、エネルギーや防災という面でも、お互いに補完する可能性がまだまだあるのだということを実践してみせたプロジェクトとして、高く評価できる」。


(写真はプレスリリースから引用)

 

住友不動産「シティハウス品川サウス」「シティハウス四谷坂町」 など

 住友不動産は「シティハウス品川サウス」「シティハウス四谷坂町」など5件が受賞しました。このうち「シティハウス品川サウス」の特徴は、設備シャフトを用いた快適な外廊下を生み出したことです。

 「シティハウス品川サウス」に対して審査員は次のようにコメントしています。

「従来のマンションでは玄関や窓まわりに設置していた、各種配管、メーター類、空調室外機等を、共用廊下の屋外側にマルチコアとして集約。扉のついたマルチコアはすっきりとした共用廊下を創り出し、外観の要素にもなっている点が高く評価された」。

「従来よりも幅広くなった共用廊下には、あらかじめベンチを設置したり、玄関先で立ち話ができるような居場所を創ることもできるのではないだろうか。『居住者に限らず様々な人が利用する集合住宅の廊下は半公共空間である』という応募者の言葉通り、今後も共用廊下から小さなコミュニティを育てる試みを続けてほしい」。


(写真はプレスリリースから引用)

 

細野 透(ほその・とおる)
建築&住宅ジャ─ナリスト。

建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。