細野透の「赤信号・黄信号・青信号」 不定期
細野 透

[第66号]国交省「次世代住宅型プロジェクト」の影響力

2022年08月01日

国土交通省がリーディングプロジェクトを支援

 皆さんは、国土交通省が2017年にスタートさせた、「次世代住宅型プロジェクト」という制度をご存知ですか。また、その目的を、きちんと理解していますか?

 国交省住宅局住宅生産課は、2017年(平成29年)6月16日付で、ウェブサイトに以下のような「報道発表資料」を掲載しました。

 ◆平成29年度サステナブル建築物等先導事業「次世代住宅型」の提案募集の開始について
  ~先導的な技術の普及啓発に寄与するリーディングプロジェクトに対する支援~

 国交省は、2017年6月19日から7月28日まで、次世代住宅型に対する提案を募集します。

 本事業は、「IoT技術(インターネットに接続したり、相互に通信したりする技術)」等の活用によって、「住宅の市場価値を高める」、および「居住・生産環境の向上等に関わる先導的な技術の普及啓発を図る」ため、予算の範囲内において、住宅等のリーディングプロジェクトの整備費等の一部を支援するものです------。

 

「次世代住宅型プロジェクト」の「第1回採用プロジェクト」

 提案募集を開始してから、約3カ月後の2017年(平成29年)9月22日に、国土交通省は以下の「4プロジェクト」を採用したと発表しました。

[■■]❶事業者名「ZEH推進協議会」
     プロジェクト名「地域ビルダー次世代住宅先導プロジェクト」
     取組テーマ「防犯対策の充実」
     取組テーマ「家事負担の軽減、時間短縮」
     取組テーマ「物流効率化への貢献」

[■■]❷事業者名「東京建物」
     プロジェクト名「Brillia 向ヶ丘遊園」
     取組テーマ「コミュニティの維持・形成」
     取組テーマ「物流効率化への貢献」

[■■]❸事業者名「芙蓉ディベロップメント」
     プロジェクト名「健康寿命延伸住宅」
     取組テーマ「健康管理の支援」

[■■]❹提案者代表「三井ホーム」
     事業名「温湿度バリアフリーで、健康・安心・らくらくホーム」
     取組テーマ「家事負担の軽減、時間短縮」

 

「Brillia 向ヶ丘遊園」の詳細

 以上の4プロジェクトのうち、東京建物のマンション建設事業である、プロジェクト名「Brillia 向ヶ丘遊園」の詳細を説明することにしましょう。

 所在地「神奈川県川崎市多摩区枡形6丁目1番1号」
 建築年月「2018年10月」
 総戸数「全82戸」
 階数「地上5階」
 最寄りの交通「小田急小田原線 向ヶ丘遊園駅 徒歩5分」

 

ウエブサイト「ススメ!次世代住宅」の記述

 国交省「次世代住宅型プロジェクト」について、非常に詳しい説明を掲載しているウェブサイトがあります。その名は「ススメ!次世代住宅」。建築専門誌「日経アーキテクチュア」などを発行する、「日経BP社」の総合研究所が運営しているウェブサイトです。

 この「ススメ!次世代住宅」は、東京建物のプロジェクト「Brillia 向ヶ丘遊園」について、次のように説明しています。

 ◆タイトル「IoTインターホンを活用し物流効率化とコミュニティ形成を、東京建物」

 東京建物の「Brillia向ヶ丘遊園」では、IoTインターホンとスマートフォンを連携させ来客応対やロビーエントランスの遠隔解錠を可能にし、各住戸にトランクルームを設置することで、宅配便の再配達の削減を図る。

 また、家族やマンション居住者の安否が共有できるWEBサービスをインターホンと連携させ、災害時の自助と共助に役立てる。WEBサービスやIoTインターホンを利用して繰り返し安否確認訓練を行うことで、防災を切り口にしたコミュニティ形成に役立てようとするものだ。

 

外出先でも来客対応、宅配便受け取り対応も

 新宿駅から小田急線急行で約20分。向ヶ丘遊園駅から徒歩5分の場所に「Brillia向ヶ丘遊園」は誕生する。鉄筋コンクリート造5階建て、82戸。2018年末に完成・入居を予定している。

 このマンションでは、専用アプリにより住戸のインターホンと居住者のスマートフォンを連携するシステムが構築されており、居住者が外出している時でも、マンションのロビーエントランスから来訪者の呼び出しを受けた場合には、スマートフォンで応対が出来る。

 マンション1階のエントランス横の共用部には宅配ボックスを備え、宅配業者は居住者が外出中でも配達を完了することができる。これによって、宅配業者の再配達を防ぐことができそうだ。しかし、ネット通販利用の拡大から「共用部の宅配ボックスはすぐに一杯になってしまうと、既往のマンション居住者から声が寄せられていた」(我山氏)という。

 こうした状況に対応するため、本プロジェクトではさらに一歩踏み込んだ仕組みを取り入れた。

 マンションのエントランスから各住戸の玄関までには、オートロックによる2つのセキュリティがある。第1のセキュリティは、呼び出しインターホンを備えたロビーエントランスだ。第2セキュリティはロビーの先にあり、通常、居住者だけがICキーを使って通過することができる。

 本提案では、スマートフォンによる応対で居住者に許可を得た場合、宅配業者が第2セキュリティを抜けて、各住戸の玄関横のトランクルームまで配達できるようにする。

 ◆具体的な手順は次のようなものだ。

 まず、宅配業者はロビーエントランスのインターホンから居住者を呼び出す。外出中の居住者はスマートフォンで第1セキュリティを解錠する。共用部の先にある、第2セキュリティを抜けるためには、オートドアを開けるためのICキーが必要だが、大手宅配会社数社と契約を締結した上で、これを貸与する。このICキーを用いることで、地域担当の宅配業者は、第2セキュリティを解錠する。このとき出入りの記録が保存される。

 ICキーを契約によって貸与する仕組みは、過去のマンションでは新聞配達を行う専売店との間で行われてきたもので、今回は宅配会社に適用するようアレンジしたのだという。

 第2セキュリティを抜けた宅配業者は、玄関横のトランクルームを、ICキーを用いて解錠する。このICキーは、FeliCaシステムによるもので、利便性に加え安全性にも考慮して採用を決めた。

 

利便性の追求とセキュリティ確保のバランスを

 技術的には実現化へのハードルは高くないように思われるが、東京建物の我山氏らを悩ませたのが「セキュリティ」についての考え方だ。

 「一般的にマンションはロビーエントランスで訪問者を確認し、不特定多数の人が出入りできない仕組みになっている。セキュリティ上の安心はメリットでもある一方、宅配の受け取りには不便であるのでは。利便性の追求とセキュリティのさじ加減について議論を交わしてきた」。

 我山氏は「技術的には、第2セキュリティやトランクルームを遠隔操作することは可能だ。しかし、遠隔でのオートロック解錠は初めての試みであり、リスクも完全には払拭できない。検討を重ねた結果、ICキーの貸与によりセキュリティ内に入る事ができる人を限定することなどで、現在の仕組みに落ち着いた」と説明する。

(追)この記事を読んで、「次世代住宅型プロジェクト」に興味を抱いた方は、ウエブサイト「ススメ!次世代住宅」をチェックしてみてください。

 

 

細野 透(ほその・とおる)
建築&住宅ジャ─ナリスト。

建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。