細野透の「赤信号・黄信号・青信号」 不定期
細野 透

[第67号]大和ハウスグループ「マンションみらい価値研究所」の興味深い取り組み

2022年09月01日

新施設「赤坂プラスタ」でセミナーやイベントを『積極開催』

 ◆大和ハウスグループは、「マンションみらい価値研究所」と名付けられた、とても興味深い研究所を運営しています。

 この「マンションみらい価値研究所」は2022年4月に、情報発信プラットフォーム「赤坂プラスタ(東京都港区)」をオープンしたと発表しました。

 ◆「赤坂プラスタ」は、大和ライフネクストの「赤坂本社1階」をリノベーションして、建設されました。全体として、「有観客で配信可能な大型スタジオ」と、「ラジオブース型のスタジオ」を備えた、『情報発信プラットフォーム』になっています。

 「行政・学術界などの専門家」や「若手研究者・NPO」等による、「交流会」や「対話会」を開催。そこから得られる「多彩な知見」を、「オンライン」および「リアル」の両方を通じて、積極的に発信していく計画です。また、「マンション管理に関する社外向けのセミナーやイベント」等も、定期的に開催する予定です。

 新しい情報発信プラットフォームである「赤坂プラスタ」の運営が、予定した通りに軌道に乗れば、「マンション関係者による、新たな情報交流の中心地」になるかもしれません。


(写真の右側中央に立つのは「赤坂BIZタワー(港区赤坂5丁目3-1)」。その向こう側(北側、港区赤坂5-1-33)に「マンションみらい価値研究所」が入居している、大和ライフネクストの「赤坂本社」がある)
(注。記事に掲載した画像は全て、大和ライフネクストのニュースリリースから入手)

 

「マンションみらい価値研究所」の新たな挑戦

 ◆大和ライフネクストは2022年6月30日付で、ウェブサイトに、興味深い記事を掲載しました。

 記事のタイトルは、「マンション管理と社会の明るい未来のために、〘マンションみらい価値研究所〙の新たな挑戦」です。記事の執筆者は、「マンションみらい価値研究所」の大野稚佳子・研究員です。

 かなり長い文章ですが、「なるべく全体像を伝えなければ」と感じるような優れた内容です。それゆえに、「全体像のエッセンス」を丁寧に要約させてもらいました。

 ◆分譲マンションの課題は、社会の課題になる。管理会社の私たちにできること。

 大和ライフネクストは2019年に、「マンションみらい価値研究所」を設立しました。マンション管理会社としては初となる総合研究所です。

 設立の目的は、『マンション管理組合が抱えるあらゆる課題』、すなわち「高齢化にともなう役員のなり手不足」や、「建物の経年劣化への対応」などの解決につながるように、「情報発信を通じて、マンション管理に関わるステークホルダーとの間に、良い循環を生み出していく」ことです。

 その趣旨に従って、様々な調査や研究を行い、レポートにまとめて、毎月ホームページ上で公開してきました。具体的には、こんな内容です。

 「築40年を経過したマンションの修繕工事費の実績」
 「消えゆく機械式駐車場」
 「管理組合の資金運用の実態について」
 「マンションではどんな訴訟が起きているか?」

 
(「マンションみらい価値研究所」の色々な空間)

 

「約40年のマンション管理事業のデータ」&「1700件以上の現場からの声」

 ◆大和ライフネクストには、「約40年もの期間、マンション管理事業を行ってきた」実績があります。その中で得られた膨大なデータと知見をもとに、1700件以上の現場の声を拾って、レポートとして世の中に広く発信してきました。

 それに加えて、「メールマガジンの配信」や「セミナーイベントの開催」などにも、注力してきました。

 ◆さらに最近では、2022年4月に大和ライフネクスト本社内にオープンした、スタジオ機能を備えたスペース「赤坂プラスタ」を活用した、情報発信にも取り組んでいます。

 マンションは今や社会インフラの1つです。「適切に管理していかないと、将来的に管理不全のマンションが近隣に悪影響を与える」というような、「社会問題」に発展することさえも予想されます。

 それゆえに、マンションの所有者全体、つまり管理組合が、「自分自身の資産として、マンションを良い状態に保っていく必要」があります。

 そのサポートをしていくのが、管理会社の使命です。しかし、大和ライフネクストの関係者たちは、「マンション管理の現場で様々な問題」を目の当たりにして、危機感を抱くようになったそうです。

 ◆まず、マンションごとの「個別の事情」もあるようです。それに加えて、「居住者の高齢化によって、修繕積立金が不足してしまった」、「認知症になった居住者が孤立してしまった」など、多くのマンションに共通する厄介な課題もあります。

 これらの課題について、「マンションみらい価値研究所から、世の中へ広く発信していくことで、少しずつでも状況を変えていきたい」。そんな想いで、関係者は日々研究を続けてきたそうです。

 

情報発信を続けることで、少しずつでも確実に変化が訪れる

 ◆さて、マンションみらい価値研究所の大野稚佳子・研究員は今、マンション管理の現場を支えるバックオフィス部門にいるのですが、その前には、現場でフロント業務を担当していました。

 具体的には、複数のマンションを担当して、理事会に対して多岐にわたる提案を行い、それを総会にはかり、組合運営をサポートしていました。ただ、一通り仕事が分かってきたころから、少しずつ「モヤモヤ」を感じるようになったそうです。

 たとえば、高齢化が進んだマンション。建物も経年が進むとより多くの修繕が必要になるのですが、工事費用を集めようにも、高齢で年金暮らしの方が多いと、修繕積立金の値上げは難しい……。

 それ故に、「これまで通りの管理業務の提供だけでは、いずれは限界を迎えるかもしれない」、と痛感するようになりました。

 「建物も人も老いていく。それは変えられないけれど、何も手を打てないのかという無力感やモヤモヤがあって・・・」。

 明るくない話です。そのため、現在のバックオフィス部門に異動してから数年間もの間、そのモヤモヤが心の底に残っていたそうです。

 ◆丁度その頃、久保依子氏と田中昌樹氏(いずれも「マンションみらい価値研究所」のメンバー)が、社内提案制度で入賞した、「総合研究所プロジェクト」の設立に向けて動き出していました。これが現在の「マンションみらい価値研究所」の前身に相当します。

 私の直属の上司であった久保さんが、「こういうことを始めるの」と、すごく楽しそうに話すのを聞いていて・・・。その姿に、とても前向きな未来を感じました。モヤモヤの解決へのヒントを得た気がして「私も協力したい」と申し出たところ、研究員として参加できることになりました。

 ただ、レポート発信を始めた当初は、「どのぐらい社会の役に立っているのかな」と、不安になった時期もありました。現場で感じていたことを、レポートとしてまとめる達成感はありました。ただ、何か発信をしても、それがすぐに問題の解決につながるわけではないのです。考えてみれば当然のことかもしれませんが、当時は焦りを感じていました。

 ◆しかし、あるとき社内から、「役員報酬に関するレポートが、担当マンションで報酬額を検討する際に参考になったよ」という声をもらいました。

 それから、本当に少しずつではあるけれど反応が返ってくるようになって、「マンション管理に関わる誰かの役に立てているんだ」という実感が湧いてきました。

 また、一部のレポートを「プレスリリース」の形で、メディア向けにも配信するようになってからは、全国紙やWebサイトなどで研究結果を引用してもらえる機会も増えました。

 それで、「マンション管理には問題が山積みである」ということを、「気づいてもらうきっかけにもなっているな」、と実感。「やはり情報発信は、続けていくことが大切なんだな」と、思うようになりました。


(「マンションみらい価値研究所」の久保依子所長)

 

2022年4月オープン「赤坂プラスタ」にかける期待

 ◆このように、「マンションみらい価値研究所」のスタッフ達は、様々な思い入れを持って取り組んできました。そして2022年早々に、大和ライフネクスト本社の1階部分をリノベーション。4月には「赤坂プラスタ」をオープンすることが出来ました。

 「赤坂プラスタ」は、有観客で配信できる「まるでテレビ局のような大型スタジオ」と、「ラジオブース型のスタジオ」を備えた情報発信施設です。

 大和ライフネクストのどの部署でも利用できる施設なのですが、「マンションみらい価値研究所」としては、ホームページで「レポートという文字情報」として発信しているものを、「動画」で発信する場所として活用しています。

 ◆このスタジオの最大の目標は、さまざまなステークホルダー(利害関係者)による「交流・対話」を行い、そこから得られる「多彩な知見」を世の中に発信し、その情報発信を通じて「社会とのつながりを生み出すこと」です。

 「マンション管理」を通じて「社会の課題」を見つけ、その解決に向けて新しいことに積極的に取り組んでいく大和ライフネクストの強みを、存分に活かすことのできる場であると思います。

 現在はコロナ禍ということもあり、社外向けイベントは配信がメインとなっています。しかし、いずれはお客様や協力会社の方を招いて、オンラインもリアルも幅広く交流し、「課題について一緒に考えることができる場」にしたいと考えています。

 大型スタジオの方は「コワーキングスペース」になっており、イベントや配信を行っていない時間は社員が自由に使うことができます。会議をすることはもちろん、違う事務所のメンバーとの交流ができます。

 スタジオで何かの準備をしていたり、会議をしたりしている様子を、周りで仕事をしている他部署の人が見て、そこから会話が発生し、偶然アイデアや交流が生まれる……などということを期待しています。

 さらに、情報発信や交流を通じて、「マンション管理の最前線で働いている社員の誇りにつながるといいな」、という気持ちもあります。

 ◆現場の仕事一つひとつがデータや知見として集まって、研究所のレポートとして発信されて、社会に対しても影響を与えることができる。だからこそ、「管理現場の誰もが、自らの仕事の重要性を実感してもらうことができるといいな」、と思っています。


(「マンションみらい価値研究所」のコミュニケーション空間 )

 

マンション管理の明るい“みらい”は、私たちの社会全体の明るい“みらい”

 ◆マンション管理事業は、暮らしの土台を支える社会インフラ的性質があり、人々の生活に根差した社会課題が身近にあります。だからこそ、その課題を取り扱う研究所があるのです。 

 今回、スタジオ新設という取り組みは目新しいのですが、これまで私たちがマンション管理事業を長年行ってきて、「提供してきた価値の延長」というようにも思っています。

 ◆たとえば分譲マンションでは、当然水も出るし、エレベーターも作動している。それが明日突然故障しても、ほとんど管理会社と設備会社だけでなんとかなるでしょう。

 でもそれが、「建物の老朽化や居住者の高齢化」のような、より長いスパンの課題になってくると、課題解決に必要な登場人物が増えてきます。場合によっては、行政やマンション周辺に住む方々まで働きかけ、対話をしていく必要があります。

 今日明日の未来を指す『あした』ではなく、数十年やそれ以上という長いスパンの『あしたのあたり前』を、社会を巻き込みながら作っていく。それが私たちの情報発信、ひいては研究所としての存在意義なのだと思います。

 ◆ホームページの「レポート」を、読んでくださっている方も、たくさんいらっしゃいます。主に「マンション管理士や弁護士」、「同業他社や不動産業界の方」、そして「管理組合の組合員の方々」が見て下さり、課題解決の参考にしていただいているようです。

 その情報発信の形は続けつつも、これまで届かなかった層の方にも情報を伝えていきたい。そのために、「動画配信という新たなカタチ」を実現するための舞台装置が、「赤坂プラスタ」なのだと思っています。

 たとえば「SDGS(持続可能な開発目標)」という言葉も、認知が広まって、いろいろな取り組みが進んでいますよね。

 そんな風に、より多くの人に気づきを与えるような情報発信を続けて、これまで関わっていなかった人たちの意識が変わって、それぞれの立場で知恵を絞るという行動が生まれる。

 そうやって一人ひとりの力が集まれば、解決につながる大きな力になります。それが当研究所のテーマである「マンションの明るい“みらい”」につながると考えています。

 ◆マンション管理は、まさに社会の縮図です。目指すは、より多くの人が心地よい距離感でつながり、お互いの暮らしを豊かにしていける未来。そのために「マンションみらい価値研究所」、そして「赤坂プラスタ」が、大きな一歩を踏み出すきっかけになればと思います。

 

細野 透(ほその・とおる)
建築&住宅ジャ─ナリスト。

建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。