● ● ● 「マンション建替え円滑化法」を活用
「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」、略して「マンション建替え円滑化法」という法律があります。2002年12月18日に施行され、2014年に改正されています。
これは、「区分所有者による、マンションの建替えに関する手順」などを、円滑に進めるために制定されたものです。
まず、下記の画像を見てください。
(✻注)上記の画像は、国土交通省が作成した、「マンション建替円滑化法の改正概要・資料3」に掲載された資料から引用しました。
●●●大和ハウス工業「ウェブサイト」の分かりやすい解説
さて、「マンション建替え円滑化法」の内容を、最も分かりやすく解説しているのは、大和ハウス工業のウェブサイト「マンション建て替えの概要-----住民自らが主体となり、一人ひとりが幸せになる建替えを実現するために)」かと思われます。
❶ マンション再生(建替え)の発意/勉強会の開催
住民有志または理事会がマンション再生(建替え)についての検討を始めます。具体的には、大規模修繕、改修、建替えについての情報を収集し、費用対効果等の比較検討を行うのが一般的です。
❷ 建替推進委員会等の設置
正式に建替えの検討を行うという管理組合総会での合意に基づき、建替推進委員会等が設立されます。「建替え決議」に向けた準備を担うのが主な役割です。建替えありきではなく、修繕・改修と比較しながら、すべての住民の意見をていねいに集めることが重要なポイントです。
❸ デベロッパー/コンサルタントの選定
建替えの実務を担う組織を選びます。一般的に数社の提案を受けた上で住民自身で選択します。表面上に出された費用だけで比べるのではなく、建替えの計画概要も含めてしっかり吟味することが重要です。
❹ 建替え決議
管理組合の組合員と議決権の各5分の4以上の賛成で成立します。この決議によって住民の意思が確認されます。区分所有法に規定された内容で、瑕疵のないように行うことが重要です。
❺ 建替組合設立認可
組合施行方式とする場合は建替えに参加する5人以上の区分所有者が定款と事業計画を作成した上で、建替合意者の4分の3以上の同意を得て知事などの認可を受けると、法人格を有した建替組合が設立されます。工事契約や資金借入など事業推進のため、一般的に法人化は必須条件です。
❻ 権利変換計画認可
住戸選定を行い、その結果に基づき権利変換計画を作成します。審査委員の同意と、組合員と議決権の各5分の4以上の賛成、関係権利者の同意を得て知事などの認可を受けます。
そして、この権利変換期日をもって、従前マンション(建替え前の旧マンション)の権利と資産額が、従後マンション(建替え後の新しいマンション)へ置き換わります。
❼ 関連組織の役割
「住民」が決定した内容のすべてについて、事業協力者や専門家など関連組織との選定からやりとりまでを含め、実際には「デベロッパー」と「コンサルタント」が実務を行います。
すなわち、「決めるのは住民」「動くのはデベロッパーやコンサルタント」という関係です。
●●●「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」を適用した建替え事業
2022年8月26日、不動産会社の「東京建物」は次のようなニュースリリースを発信しました。
◆マンションの建替え等の円滑化に関する法律を適用した建替え事業ハイツ西馬込・建替え決議可決
全権利者合意で決議可決、全79戸のマンションに建替え予定
東京建物が事業協力者として参画し、東京都大田区に建つ「ハイツ西馬込・管理組合(理事長・清水雪男氏)」と共に進めている本物件の建替え事業において、2022年8月7日に開催された建替え決議集会にて、{総区分所有者数31件}の全員合意をもって、建替え決議が可決されましたのでお知らせいたします。
本物件は、敷地規模約1616m²、総戸数31戸(ほか店舗1区画)、鉄筋コンクリート造地上7階地下1階建て、1980年(昭和55年)竣工の分譲マンションです。都営地下鉄浅草線の始発終着駅「西馬込」から徒歩1分と交通利便性に優れた場所にありながら、周辺は閑静な住宅地が広がっています。
本物件は竣工から43年が経ち、建物・設備の老朽化が進行していました。2011年に建物耐震診断を実施した結果、耐震性の不足が判明したことから、2015年に再生検討委員会の発足とコンサルタント会社の採用に関する総会決議等を経て、2019年に要除却認定決議が可決しました。
以降、区分所有者全員が建替え推進に向けて努力を重ね、今般の建替え決議可決に至りました。
当社は、多摩ニュータウンにおいて日本最大級の建替え「ブリリア多摩ニュータウン」(総戸数1249戸)を権利者の皆様と共に実現したほか、現在、「ブリリアタワー浜離宮」(総戸数 420戸)、「ブリリアシティ石神井公園ATLAS」(総戸数844戸)など、様々な建替え事業に取り組んでいます。
本プロジェクトにおいても、これまでのノウハウを活かし、住民の皆様とともに、安全・安心・快適な住まいづくりを目指してまいります。
◆名称「ハイツ西馬込建替事業」
所在地 | 東京都大田区南馬込 5-41(建替え前の住居表示) |
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交通 | 都営地下鉄浅草線「西馬込」駅徒歩 1 分 |
敷地面積 | 約1616m² |
基準容積率 | 建替前 262% 建替後 354% |
構造・規模 | 建替前 鉄筋コンクリート造地上 7 階地下 1 階建 建替後 鉄筋コンクリート造地上13階・地下1階建 |
総専有面積 | 建替前 約3250m² 建替後 約4947m² |
建物用途 | 建替前 共同住宅、店舗 建替後 共同住宅、店舗 |
高さ | 建替前 約26m 建替後 約41m |
住戸数 | 建替前 31戸(他に店舗 1 区画) 建替後 79戸(他に店舗 1 区画) |
間取り | 建替前 3LDK等 建替後 1LDK〜4LDK |
専有面積 | 建替前 55.4m²〜69.11m² 建替後 約50m²〜約92m² |
施工 | 建替前 佐藤工業 建替後 未定 |
竣工 | 建替前 1980年 建替後 2027年予定 |
「建替えスケジュール」
2011年3月 | 耐震診断を実施 |
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2013年3月 | 耐震診断結果より耐震性が不足していることが判明 |
2015年7月 | 再生検討委員会の発足とコンサルタント会社の採用を総会にて決議 |
2019年7月 | 総会にて要除去認定決議が可決 |
2022年8月 | 建替え決議集会にて建替え決議が可決 |
2024年 | 既存建物解体着手予定 |
2025年 | 本体工事着工予定 |
2027年 | 竣工予定 |
URL< https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000153.000052843.html >
(注)3点の「画像」は、PRTIMESの上記「ウェブサイト」から引用しました。
●●●東京建物が「マンション建替え事業」に込める思い
記事の最後に、不動産会社の東京建物が、上記のニュースリリース、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律を適用した建替え事業〖ハイツ西馬込」建替え決議可決」の末尾で、強調していた箇所をピックアップすることにしましょう。
-----近年、マンションの老朽化が社会問題としてクローズアップされています。
築年数の古いマンションでは、耐震性や防犯面の不安、エレベーターの不設置など、深刻な問題を抱えている建物も少なくありません。
特に全国の築年数40年以上のマンションは、2018年末時点で80万戸超、2028年末時点では200万戸近くに達すると予想されており、マンション再生が急務になっています。
当社では、様々なマンションの建替え事業に取り組んでいます。今後もお客様と社会が求める課題の解決に積極的に取り組み、サステナブルな社会の実現と持続可能なまちづくりを進めてまいります-----。
(注)「下記の画像」は、東京建物の上記「ニュースリリース」から引用しました。
細野 透(ほその・とおる)
建築&住宅ジャ─ナリスト。
建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。
著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。