細野透の「赤信号・黄信号・青信号」 不定期
細野 透

[第74号]大成建設札幌支店が「鉄骨建方工事で大ポカ」

2023年04月03日

2023年3月中旬に「精度不良」について公表

 大成建設は2023年3月16日に、「施工中の工事における鉄骨建方等の精度不良について」と題する、かなり深刻な内容の情報を公表しました。

 ◼︎各位
  会社名「大成建設株式会社」
  代表者名 「代表取締役社長 相川善郎」
  問合せ先 「コーポレート・コミュニケーション部長 齊藤泰清」
  電話番号 「03-3348-1111(大代表)」

 

【施工中工事における鉄骨建方等の精度不良について】

 この度、弊社札幌支店が施工中の「(仮称)札幌北1西5計画」(発注者「エヌ・ティ・ ティ都市開発株式会社」)において、鉄骨建方等の精度不良を発生させました。

 発注者様をはじめとするご関係の皆様には、多大なるご迷惑をお掛けすることとなり、 誠に申し訳なく深くお詫び申し上げます。

 本件は、発注者様からの鉄骨工事に関する指摘事項に対応するため、弊社において改めて鉄骨建方精度を検証したところ、複数箇所において「発注者様と定めた品質基準を満たさない鉄骨建方」、及び「スラブ厚の精度不良」が発覚したものです。

 施工者は施工精度を確認し、正確に工事監理者様へ報告する義務があるところ、弊社作業所において、「鉄骨精度計測値について一部実測値と異なる数値」を報告しておりました。

 弊社といたしましては、本件を厳粛に受け止めますとともに、「発注者様と定めた品質基準を確保した建物とするための是正工事」等、全社をあげて徹底した品質管理体制を構築し、取り組んでまいります。

 なお、是正工事につきましては、契約で定める品質基準に則った建物をお引渡しするため、「地上部分の全て及び地下部の是正対象部分を撤去」したうえで、再構築することを計画しております。

 

「28ヶ月の工期延伸」と「工事原価の増加」

 また、工期につきましては、当初 「2024年2月の竣工予定」のところ、現時点においては 28ヶ月の工期延伸が必要となり、「竣工は2026年6月末を想定」しております。

 「弊社作業所において発生した精度不良は、決してあってはならないことで」あり、本件事態の重大さを痛感するとともに、二度と同様の事態を起こさぬよう「信用・信頼の回復」に、全力を尽くしてまいる所存です。

 最後に本件是正工事に関して「工事原価の増加」が見込まれますが、現在精査中でございます。今後、業績への影響が重要であると判明した場合には、適時適切に開示してまいります。

 

「(仮称)札幌北1西5計画」の概要

 さて、「(仮称)札幌北1西5計画」の概要を、NTT都市開発が2021年11月12日に公表した「ニュースリリース」から引用する形でまとめておきましょう。

◼︎快適なニューワークスタイル、新たなビジネスの発信拠点

 札幌市内有数の1フロア面積(基準階500坪超)を有し、かつ最小約30坪までフレキシブルな分割区画が可能なオフィス空間を提供します。

 南棟のスモールオフィスと合わせて、大小様々なテナントニーズに応えることで、入居テナントの専有部の効率化、コスト削減を実現する他、テナント専用ラウンジなどの充実した共用スペースやビル利用者向けアプリ、NTTグループのICTを活用したサポートにより、ワーカーの新しい働き方、生産性向上を実現します。

 また、大企業からベンチャー・スタートアップ企業まで様々な業種・業態の企業間交流を促すため、飲食パーティーも可能なイベントラウンジを設けると共に、南棟ではコミュニティマネージャーの配置やICTの活用による人材マッチングを促進し、共創を加速させることで、「新たなビジネスの発信拠点」を構築します。

 

「北海道新聞(3月17日)」の解説記事

 「鉄骨建方工事で精度不良」という大ポカを最も早く報じた、地元の「北海道新聞(3月17日)」がウェブサイトに掲載した「解説記事」を引用しましょう。そのタイトルは・・・。

 「札幌都心再開発に影響か 複合ビル施工不良 ホテルやオフィス計画 完成2年4カ月延期」。

  大成建設(東京)の施工不良が発覚した、建設中の札幌市中央区の複合高層ビルでは、米ホテル大手ハイアットグループの札幌初開業や、大規模なオフィス賃貸などが計画されている。

 ビル建設は札幌中心部で相次ぐ大型再開発の一つで、道庁赤レンガ庁舎に面した立地の良さもあり、期待と注目を集めていた。2024年2月の完成予定が「2年4カ月」も大幅に遅れることになり、事業への影響も懸念されている。

 地上26階、地下2階のビルのうち、1階の一部と17~26階には、ハイアットグループの高級ブランド「ハイアット セントリック」(216室)が開業を予定する。同グループは札幌初進出で、コロナ禍からの訪日客回復が進む中、既存のニセコ地域の施設と連携した集客が期待されている。

 ビル開発主体のNTT都市開発(東京)は、24年春の開業に向けてハイアット側とホテルの運営委託契約を結んだ。しかし、工期延長で状況は一転。現在は「ホテル開業の可否も含めて協議を進めている」(NTT都市開発広報)という。

 3~16階の延べ2万4千平方メートルは、オフィスとして賃貸を予定。札幌では29年にかけて新築オフィスが相次ぎ完成する見通しで、工期の遅れが同ビルの賃貸事業に影響を与える可能性もある。NTT都市開発によれば既に入居を決めていた企業もあり、同社は「事業主としての責任を重く受け止め、関係者の皆さまに深くおわび申し上げます」とのコメントを出した。

 ビルの工事は15階部分まで進んでおり、今後は高さ約60メートルまで組み上げられた鉄骨などを解体して建て直される。

 

工期が遅れた場合の法的な責任は?

 今回は、大成建設が自ら「鉄骨建方工事で精度不良を発生させた」と認めているため、「施工精度の不良」や「工期の遅れ」に対する法的な責任は、同社が引き受けることになると予想されます。

 また、「建築トラブル・訴訟問題」に詳しい、『ベリーベスト法律事務所』のウェブサイトには、「建築業者によくあるトラブルと解決方法」と題するコンテンツが掲載されています。

  

( 追記 )

 本コラム(細野透の「赤信号・黄信号・青信号」)は通常、「マンション」をテーマにしています。

 今回取り上げた「(仮称)札幌北1西5計画」は「マンション」ではなく、「オフィス空間」に相当します。しかしながら、「鉄骨建方等の精度不良」は極めて深刻な事件であり、「マンション分野」でも教訓にしなければならない事例であるゆえに、記事化した次第です。

 

細野 透(ほその・とおる)
建築&住宅ジャ─ナリスト。

建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。