田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第102号]大阪神戸京都の水害リスク

2019年07月26日

関西では7月24日に梅雨が明けた。しかし、梅雨に限らず夏のゲリラ豪雨や台風による大雨は多い。ここ10年ほどの間にも降水による被害が頻発している。浸水に対するリスクは、不動産購入にあたってとても大切な要素であるにも関わらず、不動産売買契約の際に行われる重要事項説明の対象とはなっていない。せいぜい、当該物件に浸水実績のある場合の売主の告知や、周辺ハザードマップの添付止まり。物件を購入する際は購入者側の自助努力が必要だ。今回は関西エリアのことはよくわからないという方に向けて大阪市・京都市・神戸市の京阪神間の「水害リスク」を簡単に説明したい。


【大阪〜北摂と上町台地】

大阪神戸京都のエリアで、一番広範囲に水害のリスクをはらんでいるのは淀川流域の大阪府。大阪府下では、大阪大阪府と京都府の境界部であるJR東海道線「山崎」駅・阪急京都線「大山崎」駅周辺から、大阪湾にかけてのエリアまで、両岸ともに洪水リスクがある。

右岸側(北側)を北から行政区別に示すと、島本町の市街地、高槻市のJR以南、茨木市・摂津市の安威川以南/以東となる。吹田市・箕面市と猪名川流域以外の豊中市・池田市は、水害については比較的安全な場所だ。

左岸側(南側)は京阪本線以北の枚方市・寝屋川市、門真市、守口市。「寝屋川と淀川に挟まれたエリア」と言い換えたほうがわかりやすい。寝屋川以東は比較的安全と言える。

大阪市内で水害を避けようと思えば、上町台地を選べばよい。周囲と比べて高台となっているため、水害リスクは低い。JR大阪環状線内側の東側、駅で示せば「天満」駅から「天王寺」駅の間、またそこから南側の大和川に至るまでの南北に長いエリアが上町台地となる。上町台地の東側は大雨による洪水リスクがあり、西側(大阪湾側)は津波リスクが高い。


【神戸〜武庫川流域以外】

このあたりの河川は、川底が周辺の土地よりも高い天井川が多い。芦屋市内を流れる芦屋川、神戸市東灘区の住吉川、神戸市灘区の石屋川などが天井川である。ちなみに先にあげた西宮市と尼崎市の間を流れる武庫川も下流は天井川。過去には悲惨な水害もあったが、近年は天井川が決壊しての大きな水害はない。

阪神間の河川にはもう一つ特徴がある。それは、急峻な河川が多いこと。北側の六甲山系から南側の平地までの勾配が大きく、日頃の水量こそ少ないが、集中豪雨で一気に水位が上がることがある。2008年に起きた都賀川水難事故(神戸市灘区)の記憶がある人も多いであろう。

そんな神戸から阪神間のエリアだが、淀川という大河川を抱えている大阪に比べると大きな河川が少ないため、洪水リスクは低い。水害リスクが高いのは武庫川流域となる尼崎市と西宮市。津波リスクも大阪市内の様に内陸部市街地までは及ばず一部の海岸沿いにとどまる。


【京都〜京都御苑周辺】

ここ最近で実際に水害が起きたイメージでは、大阪神戸を抑えて京都かもしれない。景勝地である嵐山で桂川が決壊したのが2013年。2018年に近畿地方を襲った豪雨では鴨川等が増水、京都市内で約7万人に避難指示が出された。この京都市内最大規模の河川、鴨川。これが決壊すると危険なのは下京区・南区そして伏見区。京都市内の南部エリアが水害リスクが高い。

しかし、実際に床上浸水等の水害の実績が多いのは鴨川以東の左京区・東山区・伏見区と先にもあげた嵐山周辺を含む西京区。これらの区は里山をかかえた地形であり、大規模河川の氾濫ではなく周辺との高低差による浸水被害が起きている。その点、平坦な地形である京都市中心部の上京区・中京区・下京区では水害はあまり起きていない。特に過去に天皇の住まいであった京都御所周辺である中京区・下京区は現実の被害も少なく大規模河川氾濫のリスクも低い。水害リスクの低い場所であったことも、そこに天皇が住まわれた理由の一つであろう。


【100%安全はない、リスクを把握することが大事】

以上、簡単に大規模な河川氾濫による洪水リスクをみた。しかし京都で書いた様に大規模河川の氾濫リスクと、規模の小さな水害のリスクは別物。ゲリラ豪雨発生による浸水被害は周囲の地盤との高低差や排水インフラの整備状況によって引き起こされる。100%水害被害が起きない、と言い切れる土地はないと言っても良いであろう。

大切なのは、水害リスクの有無だけでなく、その土地がどの様なリスクをはらんでいることかを把握し災害に巻き込まれないことと言える。

 

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田中和彦 
株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。