田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第121号]都心離脱が都心暴落とはならない理由

2020年06月12日

アフターコロナで居住エリアに対する考え方が変わるのではないかと言われている。具体的には「都会から郊外への移住」の流れだ。

郊外に住むことで三密を避けることができ、テレワークが一般的になれば通勤利便性を気にしなくてもよくなる。このような動きは起きるであろうが、限定的だと考えられる。一部の都心住宅地が下落することはあっても、都心の地価が暴落したり、ましてや都心よりも郊外が上昇するといったことにはならない。理由はいくつかある。

まず、都心と比較して郊外は広すぎるということ。東京であれ大阪であれ、地方ブロック経済圏の中心地であれ、「都心」とされる中心部は、その「郊外」よりも狭く希少性が高い。単純計算では、駅徒歩1分圏の土地面積は、駅徒歩10分圏の土地面積の100分の1しかない(面積は半径の二乗に比例する)。都心と郊外の関係もこれと同じ。都心の需要が郊外に流れたとしても、総じて郊外の資産価値が高まるほどの人口移動が起きるとは考えにくい。

また、都心の需要は減るばかりではない。密を避けるために広い物件を求めるといった新たな需要が現れる。業績が良い企業であれば、過密状態を避けるために広いオフィスを手当することも考えられるし、テレワークスペースを確保するために一回り広い住戸を検討する人もいるであろう。今回のコロナ禍はバブル崩壊やリーマンショックと違い、経済的影響を受けた事業者が飲食業・ホテル業・観光業とその業種が偏っており、都心の賃貸対住宅を保有するような不動産事業者はそれほど傷んでおらず、むしろ投資のチャンスをうかがっている。また「米富裕層の資産、コロナ禍の3カ月で62兆円増える」といったニュースがあったが、日本においても都心で資産を保有しているような層はキャッシュに困っておらず、都心の不動産を安く売る必要がない。そもそも供給過多で価格調整が必要であったようなエリアは下落するであろうが、コロナ禍を理由とした都心暴落は考えにくい。

一方、都心から郊外へという動きが増えることは確実である。それは、どのように起きるのであろうか?二つのパターンが考えられる。

まずは、感度が高い・意識が高い、といわれる層の都心離れ。地方移住やIターンといった動き、コロナで価値観が変わったとして移住するような動きだ。このような「都心離れ」をする人は、そもそも一定数存在していたが、コロナ禍をキッカケに増えることが考えられる。しかし、実現できるのは資産がある人・ビジネス基盤がある人など限定的だ。もう一つは、都心の居住地を確保したままで郊外の拠点を追加するような動き。今回も「島根や鳥取に観光客が増えた」「マンハッタンからニュージャージーに引越する人が増えた」などと「郊外を目指す人」のニュースを幾つか目にした。アフターコロナ・ウィズコロナに備え「退避場所」を確保するような人は増えるであろう。これは郊外の拠点を追加する動きであるため、都心の需要低下には結びつかない。

そのような人々の指す「郊外」はどのような場所か?これもある程度予想はできる。

都心を離れる、都心以外の郊外にも拠点を構える、といったことができる層は、ある程度資金的に余裕のある人々だ。そのような人の移動先は、一部の人を除けば、買い物施設や飲食・物販等の社会インフラが整い、都市部との距離もそれほど離れていないような地域に集中するであろう。具体的には鎌倉・軽井沢、もしくは京都といった場所だ。これは、アメリカの「ニューヨークからフロリダ」「カリフォルニアからアリゾナ」といった流れと同じだ。

人口は減少フェーズに入っており、国の方針としては、国土の社会インフラを維持するため「コンパクトシティ」を推進、郊外へのスプロールを避ける方向にある。コロナ禍による「都心から郊外」への動きも、このような方針から大きく逆行するようなものにはならないであろう。

 

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田中和彦 
株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。