田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第141号]宿泊業失速で京都のマンション市場はどう変わるのか?

2021年04月16日

新型コロナはまた感染拡大の様相を示し、東京オリンピックもなんとなく盛り上がらない昨今だが、不動産市況は、こと都心部の住宅においては停滞ムードはあまり感じられない。筆者の住む京都においても住宅、特に収益アパート・マンションは売り手市場で、その価格はジリジリと上昇している。一方、商業テナントは空室が目立ち、宿泊施設も中小規模の施設は厳しい状況が続いている。

以下、現在の京都におけるマンション市況を宿泊施設との関連から簡単に解説したい。なお、内容については統計数字等に基づいたものではなく、あくまで定性的な内容であることをご容赦願いたい。

今から5年ほど前。Airbnbがブームとなり、京都の街には簡易宿所が雨後の筍のように増えた。そのブーム前後に、複数の分譲マンションデベロッパーが用地を手当てしていたが、分譲マンションよりもホテルの方が収支が良い、すなわち高い価格で売れたためホテル事業者に転売、もしくはコスモスイニシア(2018年2月に自社ブランドAPARTMENT HOTEL MIMARU(アパートメントホテル ミマル)を立上げ)のように自社(及びそのグループ)で運営するホテル事業へと切り替えた。

以降京都市内中心部は、ブーム前までなら分譲マンションとなっていた規模の土地はことごとくホテル計画用地となり、アパート用地の多くも小規模な宿泊施設へと変わっていった。

そんな「お宿バブル」が続いたのはほんの2~3年。2019年以降はホテルの過剰・宿泊税の導入・条例の改正、そしてとどめはコロナ禍による外国人観光客の消滅とホテル市場は一気に激減。2020年の春から秋にかけて多数の宿泊施設が廃業や休業に追い込まれた。当時、「ホテルの売物件が大量に出る」「ホテルがコンバージョンされて住宅に変わる」といった見通しを持つ人も少なくなかったが今現在、そのような動きはあまり起きていない。

ホテルの売物件については、小規模な町家・一戸建ての「一棟貸し」の宿は住宅ポータルサイト等に掲載されるなど一定数の売物件が出たが、中規模・大規模のホテルについては、体力のある事業者による水面下での買収などはあったが、京都ホテル保有の粟田山荘(*1)や「京都ホテル 京都八条」(*2)が目立ったくらいで、むしろホテル事業者による「買いニーズ」の方が多い状況だ。ただ、計画段階で着工されていなかった「ホテル用地」は計画が頓挫し売りに出された物件は多かった。それらの中にはマンション用地となったものも多く、現在先行案内会が行われている「レ・ジェイド京都堀川」は当初はホテル計画用地を日本エスコンが購入したもの。同社は他にも京都市営地下鉄「五条」駅でも「元ホテル用地」を保有している。

ホテルのコンバージョンについては事例はあるものの、大きな流れにはなっていない。宿泊施設から住宅へと用途変更されたものの多くは、もともと住宅であったものを宿泊施設にした施設が多い。宿泊施設用に建てられた建物は、居室が狭かったり、キッチン・バスタブがなかったり、採光が取れなかったりと、そのまま住宅として利用できずに用途変更するためには大規模な改修が必要なものが多い。宿泊事業での収支をベースとして土地・建物・調度品や運営体制構築に投資し、わずか1~2年しか資金回収をすることができなかった事業者が、更に多額の資金を投入し宿泊施設よりも収益性に劣る賃貸マンション事業へと転換するには心理的にも資金的にもハードルが高い。その資金を投下できるほどの事業者も、事業者が淘汰されたコロナ禍沈静化以降を見据えているので住宅への転用はしない。今はそんな状況だ。

以上のように、ホテル業界の失速による「ホテルの投げ売り」「マンションへの転用」は今のところ見受けられない。飲食テナントを含む商業不動産の不振が、マンション市場に悪影響を与えることも感じられない。むしろ今後は商業不動産から住宅不動産への資金シフトによる上昇の可能性もある。ただコロナ禍が長引けば住宅取得意欲が減衰しマンション市場が失速する可能性もある。ただ、その場合でも商業不動産よりも住宅不動産の方が優位であることは変わりないであろう。

 

*1京都ホテル、料亭「粟田山荘」を売却 コロナで経営悪化(日本経済新聞)
*2近鉄が8ホテルを売却、米ファンドに USJ最寄りなど(朝日新聞デジタル)

 

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田中和彦 
株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。