田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第165号]1万円のマンションは買いか?

2022年04月14日

1万円で売られている区分所有マンションがある。買う、買わない。さてあなたならどうするか?

ちょっといい食事すればそれくらいかかる、よし買ってしまおう!といった考えがある一方、安物買いの銭失いの格言?に従って見送る人もいる。どちらが正しいかはケースバイケースだが、市場に出ているものには安物買いの銭失いとなる不動産が多いのは確かだ。

某投資不動産検索サイトで検索してみたところ、一番安い区分マンションの価格は1万円。全国で2物件あった。場所は新潟県の湯沢と静岡県の熱海。どちらもリゾートエリアの物件だ。この「全国で2物件」は感覚として少ない。不動産会社間ではこのような超低価格物件はちょいちょい目にする。

不動産会社が目にするのに、一般ユーザーが目にしない理由は「オイシイ物件は業者間で回すから市場に出ないのでは?」と考える人もいるであろうが、実際の理由は「ネットに掲載しても儲からないから」という不動産会社のほうが多いだろう。今は、空き家の売却については特例により仲介手数料の上限が撤廃され、1万円の物件でも上限18万円の報酬を受けることが可能だが、買主側からの仲介手数料は従来通り上限があり、1万円の物件なら物件価格の5%、すなわち500円。500円の報酬を得るためにコストをかけて検索サイトに掲載する業者がいないのも理解できるであろう。

不動産会社の事情はさておき、購入者目線ではどうか?この物件を購入することによる金銭負担が全額で1万円ポッキリであれば、目を瞑ってエイヤ!と購入し保有してもいいかもしれない。しかし、区分所有マンションには管理費と修繕積立金が必要となる。この二つを併せて合計数万円という物件も珍しくない。イニシャルコストが1万円でも年間のランニングコストが数十万もかかれば、数年も保有していれば100万以上の赤字だ。修繕積立金が将来的に下がる可能性は低く、保有期間が長くなればさらにランニングコストは増加する。

このような「キワモノ物件」を見るのが好きな筆者は、定期的にネットでいろいろ情報を見回っているのだが、「安価で高利回り」の物件には、例えばこのような物件が多い。

物件価格10万円/想定賃料4万円/表面利回り:
4万円×12÷10万円=480%

しかし実際には空室なので

物件価格10万円/管理費等3万円/表面利回り:
▲3万円×12÷10万円=▲360%

仮に想定賃料が正しく借主が見つかったとしても、月の収入はわずかに1万円。給湯器やトイレを修繕でもすれば、たちまち赤字になる。

多くの物品は「買っただけで満足」「保有していることで満足」してしまうことがある。バーゲンで買った服、安売りで余分に買ったストック類。その程度であれば、あまりお勧めはしないが、不要になったら捨てれば身が軽くなる。しかし不動産は捨てることができない。買う時には売却のこと、いわゆる出口も考えなければいけない。ややもすればババ抜きで負けることになる。このような物件は、いくら安くてもノリや勢いで買ったら後悔をする。きちんと所有中のこと、売却時のことも考えておく必要がある。

買わない理由が『価格が高い』なら買え。買う理由が『価格が安い』なら買うな。

筆者がものを買うときに迷ったら思い出す言葉だ。不動産にも当てはまると思う。

 

この記事の編集者

田中 和彦

株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。

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