田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第174号]「ホテル過剰」とマンション価格~上がる京都のマンション価格

2022年08月24日

新型コロナウイルスの第7波でイベントや観劇の予定が変わった人は多いだろう。催し物等が中止になる理由として、以前は行動制限に伴い主催者側が自粛するケースが多かったが、今回は出演者に陽性反応が出て中止や延期となることの方が多いような気がする。

そんな中、国内の観光客数は徐々に回復しつつあり、わずかではあるが海外旅行に出る人も増えている。そんなコロナ禍の中、順調に増え続けているものがある。京都市内のホテルだ。

「主要なプロジェクト」としてネットで取り上げられたものを足し合わせただけでも、コロナ禍の始まった2020年33棟4123室、2021年52棟5670室、2022年29棟3443室(予定を含む)。3年で114棟13236室。凄まじい数だ。

この中には既に廃業・休業している施設も含まれるが、廃業・休業後に別の所有者によってリニューアルオープンされているものもある。これ以外にもマスコミに取り上げられていない開業もあるので正確な数ではないが、規模感に大きな違いはないであろう。

京都市は以前から「市内では住宅価格の高騰が進み、子育て世代の市外流出が深刻」という主旨の発信をしている。このホテルラッシュ、見方を変えれば、住宅になる可能性のあった100箇所以上の開発用地や既存建物が住宅にならなかったわけで、住宅不足も当然かと思える。

また住宅に比べホテルの方が収益性が高く、事業者は土地価格を高く評価できる。コロナ禍以前、用途地域による制限さえなければ、全ての土地が宿泊施設として検討されていたといっても言い過ぎではない状況の中、それに打ち勝つべく事業者が土地を仕入れて分譲するマンションが、マンション相場を押し上げているのも当たり前といえば当たり前の事象だ。

そこで今後どうなるかが気になるが、シナリオは二つ考えられる。

一つは、観光客が戻らずに宿泊施設過多で既存のホテルの廃業が進むパターン。

新規開業ホテルの室数を見ているとそんな気分にもなる。確かに今現在でも多くのホテルが開業した一方で、廃業した宿泊施設も多い。2020年度は580軒の宿泊業が廃業している。

しかし、廃業している宿泊業の多くは一棟貸しや小規模施設。営業基盤の脆弱だった施設といって良いだろう。仮に規模の大きなホテルが廃業しても、立地がよく規模感のあるホテルは新たなオーナーが現れる。廃業したホテルが星野リゾートブランドでリスタートしている例もある。実際に市場から消えるホテルは、立地が悪い小規模で経営効率の悪い施設となるだろう。短期的に廃業が進んでも、本来ホテルとしてふさわしくなかったエリアの施設がなくなり徐々に「良いホテル」へと淘汰が進むことになるのではないか。

そのようなわけで、もう一つのシナリオ、観光需要がコロナ禍以前と同等以上の水準に戻りホテルが活況を呈する方向に進むと筆者は考える。

コロナ禍がさらに続き、観光客の回復には時間がかかるかもしれない。だが前述の通り、経営基盤の弱かった施設は既に廃業している。また、コロナ禍以降に開業したホテルは経営基盤の安定している大手企業のものが多く、今のこの苦しい時期を耐えることができる。結果として二つ目のシナリオになる可能性が高い。

そしてマンション価格。後者のシナリオの場合、中心部を中心に住宅価格が下落することは考えにくい。特にJR「京都」駅、烏丸御池~四条烏丸周辺などの既存住宅は、新築分譲マンション価格の上昇を受け、さらに価値が増すであろう。

これからは、リモートワーク普及による首都圏等からのセカンドハウス・移住需要も増えるだろう。また高級ホテルに宿泊した海外観光客が京都の街に魅力を感じ、円安により買いやすくなった京都の不動産をセカンドハウスとして購入する例も今後増えるだろう。

京都市内の分譲マンション価格が下がる要素は、現状では見出しにくい。

(参考)KANSAI SANPO BLOG
「京都・四条・東山・嵯峨野(2022年~2021年)新規開業ホテル一覧(宿泊予約)新築ニューオープン開業日まとめ

この記事の編集者

田中 和彦

株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。

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