編集部厳選!マンション知識最前線!? 不定期
住まいサーフィン編集部

[第48号]こんな土地は危ない!:住まいと暮らしの防災・安全知識

2017年06月21日

新しく住まいを購入するときは、今住んでいる近く、実家の近く、通勤に便利…などいろいろ考えると思います。しかし土地の安全性については、ほとんど関心がないように見受けられます。マンションでも新築であれば50年は存続します。戸建てであれば、その敷地は何代にもわたって利用する可能性があります。土地の良し悪しは重要なチェックポイントなのです。

土地の良し悪しは重要なチェックポイント

しかし土地の安全性については、ほとんど関心がないように見受けられます

造成地の問題

最近、マンションの杭の不正がニュースになりましたが、平らな地面の下にある堅い地層が水平だとは限りません。むしろ平らでない方が普通です。それぞれ細かく測量しないと、杭は正しく堅い地層に到達しません。建物が建つ敷地の基盤構造は重要な問題です。

首都圏の住宅地の造成の初期段階は、平らな土地や比較的緩やかな傾斜の土地が対象でした。下図はそうした実際にあった造成地です。建物の建築の順を追うと・・・、①の土地に普通に建築→②の土地を盛土して平らに→③、④、⑤(奥の土地)、⑥・・・と②の敷地の高さに合わせてコンクリートブロックによる違法盛土がなされました。時がたち、①の土地の建物を建て替えるときに、違法盛土に囲まれ、谷状になった危険な敷地として、建築許可が下りない事態となってしまいました。次々に行われたこの違法盛土を許してきた①の住民も問題ですが、土を簡単に造成するとこんな問題も起こします。①の土地が危険なだけでなく、②の土地は比較的安全ですが、③~⑥の敷地も、いつもろい擁壁が崩れるかわからない危険な土地なのです。
造形事例
©佐藤章子

一方、下図は急勾配の土地の造成事例です。実際にあった大規模造成地ですが、地盤補強や基礎が不十分で、元の谷の深い部分に向かって多くの建物が傾いてしまいました。平らな土地の端にお椀状の小山がある場合は、見えない部分に深い谷が下図のように隠されていると思わなくてはなりません。
造形地の問題
©佐藤章子

河川のそばの低地は要注意!

海抜の低い地域や河川近くの低地の場合は、マンションでも浸水の事例があります。眺望の良い高層階が好みの方もあれば専用庭のある1階部分や気軽に外に出られる低層階が好みの方もいます。東日本大震災では4階部分も津波のダメージを受けていました。低層階を選択する場合は水害への注意が必要です。ハザードマップや過去の災害の事例を調べてみましょう。

2005年の首都圏豪雨では、中野区や杉並区が浸水し、マンションの玄関の郵便受けから、水が滝のように浸入してきたところもあるそうです。神田川や妙正寺川は川幅も狭く、氾濫しやすい構造の河川です。最近は環七の地下に貯水施設が作られ、一時貯水が可能になり、リスクは少なくなりつつありますが、小さい川だからと言って安心はできません。

有史以来、施政者の最大の課題は治水です。徳川家康は関東に移封以来、利根川の付け替えに腐心しました。戦いが終わると、今までの勝利者と異なって京に近いところにとどまらず、一目散に江戸に帰り、治水に取り組みました。いまだに行政は治水に励んでいます。堤防などの構造物では完全に自然の脅威には立ち向かえないのです。

崖の上や下の土地

以前のコラムでも触れましたが、1999年に横浜で高さ53mの崖が崩壊し、崖下のマンションの一部が3階まで埋まりました。マンションは崖直下にあり8階建てで崖の高さの半分以下です。横浜市はそのような危険な土地のために、建築の確認許可を下しませんでした。最終的に様々の変更の後に、建物は建ったのですが、そのような危険な土地のためにマンション価格は相場よりもかなり安く販売されました。そのために、若い子育て世代が多く購入したのです。そのようなところで子育てするのは問題だとは思いませんか?
たまたま崖上の敷地は国の所有でしたので一部建物を撤去し、崖を削って勾配を緩やかにしました。しかし、民間ではそうはいかなかったでしょう。マンション購入者の自己責任の範疇だと思います。どこに住むかはとても重要なポイントなのです。安いからと言って、危険な敷地に建つマンションで子育てするかどうかよく考える必要があるでしょう。

擁壁の上の土地や下の土地は要注意!

首都圏は広大な関東平野が広がっているイメージですが、実は東京に無数の坂があるように、実に起伏にとんだ地形となっています。人口の流入に伴って、次々に住宅地が造成されていきました。完全な平坦地はほとんどなく、最初は緩やかな傾斜のまま造成されましたが、次第にひな壇型となり、それも次第に落差が大きくなっていきました。これらのひな壇の土留めは、実にいい加減なものが多くみられるのです。段差が規定の高さを超えているにも関わらず、簡易なコンクリートブロックで作られていたり、所定の構造を満たしていなかったりするものが実に多いのです。安全な擁壁の最低条件は下記のとおりですが、なかなか条件を満たすものはありませんでした。
 
安全な擁壁の条件
©佐藤章子

排水溝は上の敷地の一部であることが原則。
  • ・構造計算書、構造図、工事写真が残っていること
  • ・水抜き穴が所定の間隔であること
  • ・水抜き穴の裏に、砂利等の排水処理がなされていること
  • ・擁壁の下部に排水溝があり、下水溝に通じていること

ひな壇の土留めとなる擁壁は構造物です。構造物である以上、所定の構造耐力を満たしていることが必要で、かつ日常的な維持管理が必要で、一定の年数がたてば造り替える必要があります。現在の住まいは戸建て住宅でも100年は持ちます。鉄筋コンクリートの耐用年数とさほど変わりがないのです。つまり建物の建て替えとともに擁壁も作り変えとなる可能性が高いのです。建て替え費用がその分相当かかってしまいます。擁壁をそのまま利用すると、建て替えた建物がまだ十分に使える時期に擁壁が耐用年数を迎えてしまうことになりかねません。
 
住まいサーフィンでは住まい選びに役立つ情報を会員限定で動画配信しています。
災害リスクを回避する方法や住宅ローンの選び方など住まい選びのHow toが満載。
すべて無料で利用できますので是非登録ください!

Author:佐藤 章子 先生 (一級建築士・CFP・一級FP技能士)

一級建築士として、大手ゼネコンや住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事し、2001年に独立。2002年に『住まいと暮らしのコンサルタント事務所』ハウステージを設立。
「健全な住まいづくりは、健全な生涯設計に宿る…」をモットーに、ファイナンシャルプランニングと建築のハード面の双方から、住まい作りや暮らしを総合的にアドバイスしています。