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  • 2020.05.13
NO.284
東京都港区「麻布台」の特徴

丘の上の再開発「麻布台ヒルズ(仮)」で一変する飯倉周辺

東京都港区「麻布台」の特徴とマンション

 東京港区・麻布台は森ビルによる大規模再開発に熱い注目が注がれているエリアだ。このエリア一帯は、飯倉と呼ばれた歴史的な地名由来の土地だが、その指し示す範囲は時代によって異なる。現在ではおおよそ旧飯倉町、飯倉片町を指す。飯倉町は東麻布1・2丁目、飯倉片町は麻布台3丁目、六本木5丁目付近だ。

 麻布台エリアは江戸時代初期まで飯倉村としての農村だったが、江戸の都市化にともなって成長・市街化したという。1662年(寛文2年)、飯倉ほぼ全域が代官町奉行両支配となった。
 明治維新後の町名刷新で、飯倉1-6丁目、飯倉片町、飯倉狸穴町に変更。なお、飯倉永坂町は麻布永坂町、飯倉新町は麻布新網町2丁目に合併、飯倉六本木町は竜土六本木町と合併して麻布六本木町となった。
 戦後、芝区と赤坂区が合併して港区が誕生。麻布飯倉町、麻布飯倉片町となり、狸穴町は飯倉の冠が付かない麻布狸穴町となる。さらに1970年代の町名整理が実施され麻布飯倉町と麻布飯倉片町は、麻布台、東麻布、麻布十番となり、残りの麻布飯倉4丁目が東麻布に編入、飯倉の名は住居表示から消滅した。
 地名から飯倉の名が消えたものの、公共・私設を問わず“飯倉”の名は積極的に使われている。例を挙げるなら首都高・飯倉出入り口、国道1号飯倉交差点や飯倉片町交差点、外務省飯倉公館など、鉄道網からやや見放されたエリアだが、旧地名は脈々と生きている。

東京タワーを眼下に、丘を想起させる「麻布台ヒルズ(仮)」

 さて本題。冒頭で記した再開発である。森ビルは「虎ノ門・麻布台プロジェクト」として建設中の正式名称は決まっていないが、森ビルが指し示す「圧倒的なスケールとインパクトを誇る“ヒルズの未来形”」だという。
 1989年に街づくり協議会が発足し、ディベロッパーとして30年の歳月をかけて取り組んできた都市再生事業であり、2017年に国家戦略特区法で都市計画決定。2019年8月に着工した。そのプロジェクトのコンセプトは、緑に包まれ、人と人をつなぐ広場のような街「Modern Urban Village」としている。
 広大な中央広場を街の中心に据え、オフィス、住宅、ホテル、インターナショナルスクール、商業施設、文化施設など、多様な都市機能を高度に融合させたヒルズだ。2023年3月に予定する完成後の街の名称を推測すると東京タワーを眼下に見る、丘を想起させる「麻布台ヒルズ(仮)」が相応しいのか?

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麻布郵便局跡地に地上65階の日本一の高さを誇るビルが

 再開発計画「虎ノ門・麻布台プロジェクト」メインの「A街区」では、旧郵政省本庁舎跡の日本郵政グループ飯倉ビル(麻布台郵便局)を解体して高さ約323m、地上65階、地下6階、塔屋2階建てのビルが建設される。完成すれば、大阪の「あべのハルカス」を抜いて日本一の超高層ビルとなる。
 取り壊された日本郵政グループ板倉ビルは、昭和初期に建てられた歴史的建造物だったため、解体を惜しむ声も多かったが、90年の歴史に幕を閉じた。
 ちなみに、麻布郵便局のすぐ隣にある外務省外交史料館や、三年坂そばの霊友会釈迦殿、西久保八幡神社(板倉八幡宮)はそのまま残る。

 ところで、「日本一の超高層」を標榜するビルといえば、一昨年公表されたJR東京駅の北東で三菱地所が開発中の「東京駅前常盤橋プロジェクト(仮)」が思い浮かぶ。こちらには高さ約390mの超高層オフィスビルとなり、「麻布台ヒルズ」よりも70m近く高い。つまり、「麻布台ヒルズ」が「日本一の超高層ビル」を謳えるのは2027年までの約5年間だけである。また、上層階は居住用マンションとなるため、展望台などの設備計画は一切ない。

就業者数は約2万人を見込むオフィス棟、全1400戸の住居棟

 このA街区内には、オフィス、スーパーマーケットを中心とした商業施設などが入居するほか、インターナショナルスクールも設けられる。商業施設やオフィスのテナントについては現時点では未発表だが、六本木ヒルズ等のように広域の幅広い客層の獲得を目指したものではなく、周辺住民に加えてインターナショナルスクールに通う児童生徒やその保護者など、都心に住む外国人をターゲットにするようだ。そのため、多言語対応医療私設導入の計画もあるという。
 賃貸オフィス総面積は約21万3900平方メートルで就業者数は約2万人を想定。全住宅戸数は約1400戸で居住者数は約3500人を想定しており、六本木ヒルズの開業時をそれぞれ上回るとされる。

 プロジェクトが進行する麻布台エリアは外資系企業や大使館、外国人居住者が多いグローバルな街だ。国際的だが、旧くは島崎藤村や永井荷風らが居を構えた都心を一望できる高台の高級住宅街だ。このエリアのマンション居住者は芸能人も多いが、外国人も多いとされる。また、近くに虎の門病院や慈恵医大病院などの大きな総合病院があるため医師も多く住んでいるという。
 2010年にはロシア大使館の裏手にある伝統と歴史あるアメリカンクラブとパートナーシップを組んだ三菱地所が、クラブ直結の借地権契約マンション「麻布台パークハウス」を建設して話題となった。当地は江戸時代、尾張藩主徳川慶勝の大名屋敷であり、明治期にはジョサイア・コンドル設計の洋館、海軍大将・川村純義の邸宅が建っていた。

 一方、地下鉄南北線・六本木一丁目駅側の「B街区」の「B-1街区」には地上64階、地下6階、塔屋2階、高さ約263mの、「B-2街区」には地上53階、地下6階、塔屋2階、高さ約233mの超高層タワーマンションが建つ。総戸数は約1300戸。すでにこのエリアでは、東京メトロ六本木一丁目駅に直結で人気のタワーマンション「泉ガーデンレジデンス」が高層オフィス棟と並んで建つ。
 また、「C街区」は地下鉄日比谷線・神谷町駅西側にあたり、8階建て以下の低層4棟が建てられる。この街区には再開発エリアにあった店舗、寺院なども移転する。各棟は地下通路で東京メトロ神谷町駅、六本木一丁目駅と結ばれる。

吉田 恒道

Yoshida Tsunemichi

大学卒業後、ファッション専門誌の編集者を皮切りに、音楽誌、自動車専門誌などの編集者を歴任。その後、複数のライフスタイル誌の編集長を経てフリーに。著書に「シングルモルトの愉しみ方」(学習研究社)がある。

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