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  • 2020.07.30
NO.315
東京都世田谷区「下北沢」の特徴

小田急線地下化で大きな変化が起きる、小さな個性派商店が密集するシモキタ

東京都世田谷区「下北沢」の特徴とマンション

 世田谷区内の商業地のひとつ下北沢は、シモキタの愛称で呼ばれる雑多な繁華街といえる。小田急線と京王井の頭線が交差接続する新宿、渋谷の都心への移動が非常に便利な街だが、その都心繁華街には無い魅力で、若者を中心に来街者が絶えないエリアである。

 東京世田谷区に「下北沢」という住所は存在しない。しかし、下北沢駅はある。冒頭で記したように小田急線と京王井の頭線が交差接続する一種のターミナル駅だ。この駅の周辺エリアの世田谷区北沢1丁目から5丁目と代沢の一部地域、かつて東京府・荏原郡の下北沢村だったエリアを一般的に下北沢と呼んでいる。1927年に開設された小田急線・下北沢駅は世田谷区北沢2丁目に位置する。
 北は渋谷区笹塚・幡ヶ谷、東は渋谷区大山・上原など、南側で世田谷区太子堂・池尻に、そして西側で世田谷区代田・大原に接する。

“シモキタ”独特の雰囲気を醸し出す商店街

 街区としての規模は、それほど大きくない。が、駅周辺のおおむね6つの商店会で構成される商店街は小さくて個性的な活気に溢れた店がひしめき合い独特の雰囲気を醸し出している。カフェや雑貨、洋服・古着屋、中古レコードCD店やさまざまな形態の飲食店が多く存在する街として人気があり、個性的な小さな映画館、ライブハウスなどのサブカル系アート施設が多い。また、本多劇場やスズナリ劇場など小さくても著名なハコがある”演劇の街”で、サブカルチャーを含め独特の文化圏を形成するエリアでもある。

 住宅情報誌などの調査で、住みたい街の上位にランキングされることが多く、とくに若者たちからの支持が高い街だ。事実、エリアの世帯の5割は単身者、および2割の2人世帯で占められる。ただし、10分ほど歩けば、世田谷区らしい低層の閑静な住宅街が広がる住みやすい街でもある。
 メディアなどで紹介される下北沢は、この駅周辺の雑踏イメージが強いが、それ以外の東北沢・池ノ上の駅前などに近隣商店街がそれぞれあるものの、それ以外はおおむね住宅地で、中小規模の集合住宅や戸建が多い。上原に近い東北沢駅周辺には、低層の高級マンションも目立つ。

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自動車移動には不向きな商業地

 エリアの鉄道駅は下北沢駅を中心に、小田急線・東北沢駅、井の頭線の池ノ上駅があり、新宿や渋谷へ10分程度で移動でき、電車移動は極めて至便な地域だ。が、反面、道路網は茶沢通り、井の頭通りの幹線が通るものの、その他の道路は世田谷のかつての農道がそのまま残された狭隘な道ばかりで、自動車交通は問題点ばかりが指摘される。

 小田急線の連続立体交差工事および複々線化に伴い小田急線・下北沢駅は地下化され、2018年3月に複々線工事が完了。地下2階ホームが緩行列車線、地下3階ホームが急行列車線とする2層構造となった。井の頭線との乗り換えは、それまで改札内で可能だったが、この地下化に伴い改札口が別々となる。また、小田急線が地上から地下に変わったことで従来、井の頭線~小田急線の相互乗換時間が1分~2分だったものが、混雑時には5分以上かかるようになった。下北沢駅の1日の平均乗降客数は小田急線が11.8万人、井の頭線が11.4万人(ともに2018年度)だった。

小田急地下化で誕生した「下北線路街」で新たなトレンドが……

 小田急代々木上原駅から梅ヶ丘駅の間で完成した地下鉄化立体交差事業で生まれた下北線路街の下北沢駅上に新しい小田急が運営する商業施設「シモキタエキウエ」が昨年11月に地上2層構造で生まれた。店舗構成は1階が4店舗、2階が12店舗の計16店。
 また、同じ下北線路街に2020年4月、代田2丁目に商業施設「BONUS TRACK/ボーナストラック」が完成、オープンしている。ここはいかにもシモキタらしい飲食店から、文房具店、中古レコードCD店、古着屋、さらには不動産屋まで、個性豊かな13店舗が揃っている。
 下北線路街では、世田谷代田側で2020年4月に保育園「世田谷代田仁慈保幼園」、1月に輸入食材店「カルディ」の新業態キッチン&カフェ「KALDINO」が出来、以降もさまざまな施設の建設が予定され、複数の商業施設に加えて賃貸住宅や学生寮、温泉旅館「由縁別邸代田」、シティホテルなどがオープンする予定だ。

大きく変貌する? 下北沢駅前

 下北沢駅地下化後のかつての地上駅ホーム跡には、駅前バス・ターミナルなどの後述する世田谷区による再開発事業も予定されている。しかし、これまで吉祥寺や三軒茶屋、中目黒などと並んで人気の街だが、「若者の街、古着屋の街」、そして演劇を含めた「サブカルチャーの街」と紹介されてきたシモキタの伝統を守りたい地元住民からは反対の声もあがっている。

 下北沢駅は駅前スペースが狭く公共の駅前広場などが整備されていない。駅付近に自動車が乗り入れにくい形態であり、これまで路線バスの停留所は駅から離れた場所に設置せざるを得ない状態で、鉄道とバス・タクシーなど他の公共交通との結節機能が極めて脆弱だ。
 このため所在地の世田谷区では、小田急小田原線の地下化及び京王井の頭線の高架橋改築に合わせ、駅前広場の整備を進めている。これは地下化後の小田急の鉄道敷地跡を活用して、駅南北の一体的な歩行者の拠点となるスペースを設け、商業密集地の空間として、駅周辺を生活拠点として整備することを目的としている。整備事業は2021年度中の完工を予定している。

 世田谷区の整備計画には、下北沢駅周辺の商業地区の指定されたエリアに店舗など新たに商業施設を建てるための厳しく具体的なガイドラインが設定されている。それによると開発には、建築確認申請前の段階で、建築着手30日前までに世田谷区に届出が必要であり、ガイドラインには「性風俗店」出店を排除する条項も含まれる。

吉田 恒道

Yoshida Tsunemichi

大学卒業後、ファッション専門誌の編集者を皮切りに、音楽誌、自動車専門誌などの編集者を歴任。その後、複数のライフスタイル誌の編集長を経てフリーに。著書に「シングルモルトの愉しみ方」(学習研究社)がある。

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