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  • 2020.08.06
NO.322
神奈川県川崎市中原区「武蔵小杉」の特徴

かつての新興工場都市が、2000年以降の急速な再開発で大きく変貌した街

神奈川県川崎市中原区「武蔵小杉」の特徴とマンション

 東西に走るJR東日本の南武線と東急電鉄の東横線・目黒線が交差する結節点に設置されている駅が、武蔵小杉駅だ。周辺は超高層マンションが林立し、その集積度は日本有数である。川崎市中原区の区役所があり、同区行政・商業の中心と位置付けられる地域だ。

 一般的に武蔵小杉と呼ぶ場合、駅周辺の小杉町を中心に小杉陣屋町、小杉御殿町、新丸子町、新丸子東、中丸子などを含むエリアを指す。
 江戸期まで地域は水田が広がる田園地帯に中原街道がとおる宿場「小杉宿」があるだけの農村だった。明治時代に入っても大きな変化は訪れず、武蔵小杉が大きく変わるのは、時代が昭和になってからだった。

東急「工業都市駅」、南部鉄道「グランド前停留所」「武蔵小杉停留所」

 1926年(大正15年)に東京横浜電鉄(現・東急)線が通るも、付近には鉄道駅は出来ず、1927年(昭和2年)、南部鉄道(現・JR南武線)、そして1929年に東海道貨物線(横須賀線)が敷設され、一帯は急速に工業化を遂げる。1936年に日本電機(NEC)、1937年に三菱ふそう、1938年に富士通など、当時はまだ新興産業としか思われていなかった新しい企業の大工場が進出する。

 そして、東急電鉄の「工業都市駅」が開業するのは1939年だ。ちなみに南部鉄道はふたつの駅を設置し、現在の武蔵小杉駅の場所には後述する銀行系の運動場があったことで「グランド前停留所」と名付けられ、「武蔵小杉停留所」は西側の府中街道との交点付近にあった。南武線と東急線の結節点が「武蔵小杉駅」となるのは、1945年6月16日で、終戦を迎える2カ月ほど前だった。

 グラウンド前駅の名称由来は、駅前に横濱正金銀行のグランドがあったためだが、このグランドはその後、同銀行の後身である東京銀行が使用していた。しかし、その後のメガバンク統廃合で東京三菱銀行、三菱UFJ銀行に変貌した際に、資産整理のため閉鎖された。跡地はしばらく駐車場になった後、三井不動産レジデンシャルなどによって開発。タワーマンションのパークシティ武蔵小杉(ミッドスカイタワー、ステーションフォレストタワー)が建設され、2008年に竣工した。

 いっぽう、工業都市駅の名称由来は、前述のとおり昭和になって駅周辺に工場が多く進出・立地したため、その最寄り駅として設置されたことによる。多摩川対岸の高級住宅地「田園都市・田園調布」と対になる街でもある。なお、東京横浜電鉄と南武鉄道は関係会社ではあるものの実際は不和であったため、しばらくの間その結節点に駅が設置されることは無かった。

 現在、武蔵小杉駅は2010年にJR東日本の湘南新宿ライン・横須賀線が開業し、東急電鉄、合わせて6路線が乗り入れるターミナル駅となっている。
 JR東日本の南武線、横須賀線、湘南新宿ラインに加え、相鉄直通線が乗り入れ、東急は東横線と目黒線が走る。そのため、東京都心や横浜都心、みなとみらい地区、川崎&横浜郊外住宅地へのアクセスが至便になっている。

タワーマンションが林立する街へ、進められた再開発

 川崎市は市の都市計画で、武蔵小杉を川崎の「第三都心」に指定。商業・業務・文化交流・医療・文教・都市型居住等の機能を集積させた「歩いて暮らせるコンパクトなまちづくり」を推進している。ちなみに都心は云うまでもなく川崎駅周辺、副都心は溝口/新百合ヶ丘である。
 武蔵小杉駅周辺の3ヘクタール以上の工場跡地やグランド跡地では、2000年以降に超高層マンションの建設ラッシュが続いた。また、再開発によりグランツリー武蔵小杉(2014年開業)を筆頭とした大規模な商業施設が開業している。

 川崎市アセスメント条例の高層建築物適用第1号となったエリア初の高層オフィスビルは1995年に完成した武蔵小杉駅の北側の小杉町1丁目に建った、武蔵小杉タワープレイスだ。そして、ついで2000年にNECが創立100年を記念して「NEC玉川ルネッサンスシティ」南棟を、2005年に同北棟を竣工させてからタワービル&マンション建設が続く。

 再開発が始まって以来、地価が著しく上昇し、リクルートによる首都圏住みたい街ランキングでも5位(2015年)、4位(2016年)、6位(2017年/2018年)、9位(2019年)と上位をキープしている。

 その一方で、2019年10月の台風19号による大雨の影響で多摩川の水位が氾濫危険水位まで上昇し、武蔵小杉駅周辺も浸水被害を受けた。一部タワーマンションの地下電気室が水没、1週間近く停電する被害が出た。また、近隣の大型商業施設「グランツリー」も1階部分が浸水した。
自治体による洪水対策と、タワーマンション電気設備の浸水対策の必要性が強く感じられる出来事であった。

これからの再開発事業

 武蔵小杉で今後注目されそうな開発事業は、日本医科大学武蔵小杉キャンパス再開発計画だ。小杉町1丁目に大学に付属する日本医科大学武蔵小杉病院がとなりの敷地へ移転する新築工事が既に始まっており、2021年に9階建ての新病院が開業予定だ。そして、現在の病院を解体後、同敷地跡に地上50階、地下1階、高さ約180m、総戸数約1500戸のツインタワーマンションを新設する計画を発表している。マンションの下層階には、老人福祉センター、高齢者向け住宅、商業施設、保育所、スポーツクラブ等の配置が予定されている。

吉田 恒道

Yoshida Tsunemichi

大学卒業後、ファッション専門誌の編集者を皮切りに、音楽誌、自動車専門誌などの編集者を歴任。その後、複数のライフスタイル誌の編集長を経てフリーに。著書に「シングルモルトの愉しみ方」(学習研究社)がある。

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