住まいサーフィンレポート2022年夏-秋期 住宅評論家 櫻井幸雄が見たマンション市況&狙い目新築マンション

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物価上昇が続くなか、「マイホーム購入が最高のインフレヘッジ」という昭和の知恵に学ぶこと

住宅評論家 櫻井幸雄

 物価の上昇が問題となり、インフレへの移行も心配されているなか、思い出すのが昭和時代の高度成長期だ。
 高度成長期は、昭和30年(1955年)から昭和47年(1972年)頃までを指し、毎年10%以上の経済成長を達成した時代だ。
 当時の物価上昇はすさまじく、モノの値段が毎年10%程度上がり、10年間で2倍になった。
 昭和29年生まれの私が小学校低学年で初めて買った漫画雑誌の「週刊マガジン」が40円。それが、翌年50円になり、そのまた翌年は60円。中学生になった頃には100円を超えた。
 給料も毎年上がり、子供の小遣いも年々上がったので、仕方なく買い続けたが、実際は小遣いの上昇を上回る物価上昇だった。
 その当時は、家の値段も毎年上がり続けたので、よく言われたのが「家は1年でも早く買え」だった。
 貯金をして頭金を貯めようとしても、頭金が貯まるスピードよりも、住宅価格の上昇のほうが早かった。だから、「貯金をするより、借りれるだけ借りて、少しでも早く買え」と言われたわけだ。
 インフレが進行すると、お金の価値が下がる。そのため、無理めの住宅ローンを組んでも、返済負担は年々軽くなる。
 たとえば、月収10万円の人が毎月5万円返済のローンを組んだ場合、返済負担率は危険水域といわれるほどに高い。最初は返済が大変だ。が、翌年は月収が11万円になり、そのまた翌年は月収が13万円に上がる。月収15万円になったときも、ローン返済は5万円。だから、無理なローンを組んでも、その負担は年々軽くなる(当時は固定金利ばかりだったので、毎月の返済額は変わらなかった)。だから、無理なローンを組んでもよい、とされたわけだ。
 今では腰をぬかす人続出モノの理論が、まっとうな知恵として通用していた。
 「そんなこと、信じられない」と思うかも知れない。
 しかし、高度成長期のインフレを体験している世代からすると、
・毎年、モノの値段が上がらず、給料も上がらない
・家はいずれ値下がりするはずで、待っていれば安くなる
・給料は上がらないが、住宅ローンの金利はほぼゼロに近いので、住宅ローンを組んでも不安は少ない
 という現在の考え方のほうが、「そんなこと、信じられない」なのである。
 といっても、今からインフレ時代の考え方に改めなさい、といっているのではない。
 高度成長期時代の発想は、あくまでも昔の話。戦後の復興期で、良質な住宅の数が足りず、多くの人が「マイホームの夢」を追いかけていていた時代だからこその発想でもあった。
 少子化が進み、一部エリアで住宅が余り、タダでも引き取り手がない家が生じている現代に当てはめようとしても無理がある。
 それでも、発想の転換は必要だろう。いつまでも「デフレ時代」の考え方にとらわれているのではなく、現代のインフレに対応する知恵が求められている。
 では、新しい時代に対応する知恵とはどんなものだろう。

インフレでは、マイホーム購入が最高のリスクヘッジ

 2022年に入り、全国的に地価の上昇が続き、物価の上昇も目立つ。世界的なインフレも進行していること、原材料費と人件費の上昇などを考えると、今後、マンション価格が下がることは望みにくい。
 高額化した都心マンションは価格上昇のスピードが落ちるだろうが、まだ割安な郊外マンションは価格上昇の可能性が高い。加えて、賃貸に住んでいる場合、家賃が上がるリスクも覚悟しなければならない。
 全国的な人口減少のなか、東京都では、コロナ禍が起きて3年目となり、再び人口が増えはじめた。結果、首都圏ではインフレにより賃貸家賃上昇の可能性が生じる。
 企業は社宅を減らし、民間の賃貸住宅を借り上げる方向に舵取りをしている。
 そうなると、賃貸住宅を借りる人が増える。賃貸住宅のなかでも便利な場所で良質なつくりの物件は賃料がますます上がる。
 バブルが崩壊した後のデフレ時期、日本の家賃水準はほとんど変わらず、東京23区内の2DK(40㎡弱)の平均家賃はずっと10万円前後で推移した。
 だから、「一生賃貸でもよい」と考え方が支持された。
 しかし、インフレが進み、毎年家賃が上がるようになると、賃貸派には厳しい時代がやってくるだろう。実際、高度成長期の家賃上昇はすさまじかった。
 1960年、東京23区内の2DK(40㎡弱)平均家賃は3861円だった。それが、1966年に9460円となり、1970年には2万680円になった。
 ※金額はすべて、総務省統計局の「小売物価統計調査」のもの
 10年間で、家賃が5倍以上に跳ね上がった時代があったのだ。
 昭和時代に長く続いたインフレのとき、「マイホームを早く買うことが、最高のリスクヘッジ(危険回避策)」とされた。
 早くマイホームを買えば、賃貸の家賃が上がっても、その後マンション価格が上がっても困らない。それどころか、マイホームを賃貸に出すことで高い収益も期待できるからだ。
 インフレが始まるのであれば、それに対応する知恵が必要になってくる。そのことを、そろそろ本気で考えはじめるべきだろう。

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住まいサーフィンレポートとは?

実際に販売センターを見て回り、マンションの「今」情報を提供。
年間200件以上のマンション、建売住宅を見て回る住宅ジャーナリスト櫻井幸雄。実際に歩き、目で見て、耳で聞き集めた情報には、数字の解析だけでは分からない「生々しさ」があふれている。
この新鮮情報を「住まいサーフィン・レポート」としてまとめて主要マスコミに配布。あわせて、住まいサーフィン上でも公開する。住まいサーフィン上ではレポートとともに、旬の狙い目である新築マンションも紹介。マンション購入のアドバイスとする。

住宅ジャーナリスト櫻井幸雄の経歴

櫻井幸雄の顔写真

1954年生まれ。1984年から週刊住宅情報の記者となり、99年に「誠実な家を買え」を大村書店から出版。
以後、「マンション管理基本の基本」(宝島社新書)、「妻と夫のマンション学」(週刊住宅新聞社)、「儲かるリフォーム」(小学館)などを出版。
最新刊は「知らなきゃ損する!21世紀マンションの新常識」(講談社刊)。
テレビ朝日「スーパーモーニング」の人気コーナー「不公平公務員宿舎シリーズ」で住宅鑑定人としてレギュラー出演するほか、「毎日新聞」で、住宅コラムを連載中。「週刊ダイヤモンド」「週刊文春」でも定期的に住宅記事を執筆している。

オフィシャルサイト
http://www.sakurai-yukio.com