細野透の「赤信号・黄信号・青信号」 不定期
細野 透

[第31号]神戸市が「中心部のタワマン建設」を規制する理由

2019年09月02日

容積率を900%から400%に低減

 神戸市議会は今年7月、神戸市の中心部、すなわち繁華街の「三宮」や山陽新幹線「新神戸駅」の周辺などで、タワーマンションの建設を規制する改正案を可決しました。

 同改正案は、敷地面積が1000平方メートル以上の建物に関しては、住宅を用途とした場合、容積率を400%以内に制限しています。その結果、今後はほぼすべてのタワーマンションの建設が困難、という事態になりました。なお従来は用途を問わず、容積率が最大900%でした。

 今回の措置は、法的には「神戸市民の住環境をまもりそだてる条例」を改正したものです。その目的は、大規模なタワーマンションの建設によって都心の住宅地化が進むのを防ぎ、ビジネス・商業・観光などの機能を活性化させること。2020年7月1日から施行される予定です。

 なお、神戸市には現在、69棟のタワーマンションがあり、そのうち24棟が都心の中央区に集中しています。

神戸市におけるタワーマンションのあり方に関する課題と対応策

【※注1】 
「神戸市民の住環境をまもりそだてる条例」を知るためのURL
 <http://www.city.kobe.lg.jp/information/project/urban/kobetoshin/190704jyukanjorei_gaiyo.pdf>
 
 このURLをクリックすると「特別用途地区──都心機能誘導地区」というタイトルの資料があります。その中に、「神戸市民の住環境等をまもりそだてる条例(抜粋)」が掲載されています。

【※注2】
 上記の写真は「神戸市におけるタワーマンションのあり方に関する課題と対応策(報告書)から引用」

 報告書のURL
 <http://www.city.kobe.lg.jp/information/press/2018/12/tower_houkokusyo.pdf>

 

「タワーマンションのあり方に関する研究会」 

 この条例改正に先立ち、神戸市は2018年9月、以下に示す有識者10名で構成される、「タワーマンションのあり方に関する研究会」を発足させました。

 戎正晴──弁護士、明治学院大学法学部客員教授
 嘉名光市──大阪市立大学大学院工学研究科教授
 齊藤広子──横浜市立大学国際総合科学部教授
 佐野こずえ──近畿大学建築学部建築学科講師
 島原万丈──LIFULL HOME'S総研所長
 砂原庸介──神戸大学大学院法学研究科教授
 中村良平──岡山大学大学院社会文化科学研究科・経済学部教授(特任)
 野澤千絵──東洋大学理工学部建築学科教授
 渕圭吾──神戸大学大学院法学研究科教授
 牧紀男──京都大学防災研究所教授

 

目指すべきタワーマンションの姿 

 同研究会は2018年12月に、「神戸市におけるタワーマンションのあり方に関する課題と対応策」と題する報告書をまとめました。

 報告書のURL
 <http://www.city.kobe.lg.jp/information/press/2018/12/tower_houkokusyo.pdf>

 タワーマンションのあり方に関する課題とは、次の3点です。

 ⓐ持続可能性の確保──「修繕積立金不足」、「将来の保有コスト負担」、「災害への対応」

 ⓑ良好なコミュニティの形成──「区分所有者の属性の多様化による合意形成の困難」、「周辺コミュニティとの関係の希薄化」、「高層階住民の外出行動の減少」

 ⓒまちづくりとの調和──「都心部への人口集中」、「インフラの不足」

 この課題を解決するため、同研究会は目指すべきタワーマンションの姿として、「地域と共生する、クオリティの高い、持続可能なタワーマンション」という目標を掲げました。

 

「まちづくりとの調和」という課題

 研究会では、前記のⓒ「まちづくりとの調和」という課題のうち、特に「集中立地の抑制」という観点から、各委員が次のような意見を述べました。

 ①郊外から都心への過剰な人口集中は望ましくない。
 ②市場性を考慮すると、郊外でのタワーマンションの立地は困難。

 ③神戸の業務機能としての拠点性の低下が、都心部へのタワーマンション立地の要因の1つとなっている。
 ④商業地や観光地としての、タワーマンションのあり方を考える必要がある。

 ⑤タワーマンションの敷地と周辺のまちが隔絶しており、まちの連続性やにぎわいを維持するためにも、周辺地域と一体になったまちづくりが重要。
 ⑥タワーマンションを大事なまちの資源として考え、適正な管理のための施策を整備することが重要。
  
 ⑦タワーマンションの足元の公開空地が、どうあるべきか考えるべき。
 ⑧公開空地の利活用により、まちの価値向上に寄与できる可能性がある。

 ⑨鉄道の駅前に人口誘導する場合に、高層化による手法がよいのかは検討の必要がある。
 ⑩景観も神戸の重要な資産なので、検討にあたっては景観に関しても考慮すべき。

 神戸市議会が可決した、「市中心部でのタワーマンション建設規制策」は、研究会がまとめた報告書「神戸市におけるタワーマンションのあり方に関する課題と対応策」に添った内容になっています。

 

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細野 透(ほその・とおる)
建築&住宅ジャ─ナリスト。

 建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

 著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。