田中和彦が斬る!関西マンション事情不定期

[第120号]緊急事態宣言で不動産営業はどう変わったか?

2020年05月29日

田中 和彦 ( たなか かずひこ )

緊急事態宣言が順次解除され、コロナ禍も次のフェーズに入ったと言える。解除といってもマスクを外しライブハウスに行って……といった行動ができるのはまだ少し先。感染症予防対策は継続したままに、少しづつ次の生活様式を模索するような状況となっている。

不動産業界も同様だ。休業要請対象となっていた「住宅展示場(戸建て、マンション)」はもちろん、売買、賃貸共にコロナ以前と今とではいろいろ変化があった。

 

【リモートワークと営業自粛】

大きな変化の一つは、リモートワークだ。大手不動産業者を筆頭に、中小を含む多く事業者がリモートワークを採用し、事務所に出社する人員を抑制した。しかし、不動産営業の主戦場は現場。事務所に出向かずともメールや電話で営業し、現地に案内することは可能。実際にそのような営業スタイルで、特段いつもと変わりなく動いていた事業者も多い。特に郊外の不動産仲介会社には「コロナの影響はほとんどない」という会社も多い。

また緊急事態宣言中は「営業活動の中止・抑制」もあった。三井不動産レジデンシャルや野村不動産は営業自体をストップした。新築マンションや新築一戸建て部門は「住宅展示場(戸建て、マンション)」が休業要請となっており営業を続けることは難しい。それに足並みを揃える形で仲介部門も営業停止になったといえる。一方、住友不動産のように「完全予約制」で営業を続ける事業者もあり、企業ごとにスタンスの違いも見られた。

ただ小規模の不動産仲介業者は少し事情が異なる。中古マンションや中古一戸建て等の仲介は、元々ネットやチラシの問い合わせ客に対する案内から成約に至るパターンも多く、オープンルーム等のイベント開催ができないとはいえ、営業は継続可能な状態。また自宅にいる時間の増えた人が多いことから、ネットからの問い合わせが大幅に増加した事業者も多数あったと聞く。飲食や物販等が大打撃を受け動きが鈍化した事業用不動産の仲介に比べ、住宅の仲介はあまり大きな打撃は受けることはなかった。

 

【営業のデジタル化、進む】

リモートワークは直接購入者(や売主)には関係ない話であり、営業自粛も期間限定の話。今後の業界のあり方、購入者が影響を受ける変化といえば「営業のデジタル化」だ。

今までにも「VR内見」や「動画による紹介」は存在した。しかし、あまり需要はなかった。理由は簡単、実際に見る方見せる方が簡単でわかりやすいからだ。特に、事業者の方にその意識が強かった。不動産の営業では「あまり多くの情報を開示しない方が良い」といった風潮がある。ネットで「会員限定物件情報」を掲載したり、チラシやメルマガで「続きは現地で」と案内してみたり、情報の出し惜しみが多い。

それは、実際に会って話をした方がクロージングできる=成約に結びつくと考えれているからだ。確かに、ショボい写真で第一印象が悪くなったり、言葉で書いても良さが伝わりにくいアピールポイントなどもある。営業マンは、なんとかお客様を現地に呼び込みたく、そうであることが顧客側も当たり前と感じていた。

しかしこの自粛期間中は「現地に呼び込む」ことができず「お客様の自宅に行く」こともできず、WEBや電話でのコミュニケーションしか取れない状況が続いた。背に腹は変えられないと「デジタル営業」をする事業者が増えた。ここ数年、カメラ等の機材の進化や不動産事業者を対象としたデジタルサービスの多様化は目覚しい。2~3年前に導入金額や成果物のクオリティを見てデジタルツールの導入を見送った事業者が、改めてこの機に再検討のうえ導入をした、というパターンも多くあるだろう。その結果、3Dカメラを利用した間取り紹介、YouTube動画による物件紹介から、zoom内見、オンライン接客といった導線ができつつある。

 

【アフターコロナはリアルとバーチャルのハイブリッド】

今後も不動産業界の営業・接客におけるデジタル化は進む。例えば「IT重説」。不動産の売買契約の際に行われる重要事項説明は対面で実際に会って行う必要があるが、今はオンラインでの重要事項説明、通称「IT重説」の解禁に向けて準備が整ってきている。これで署名捺印もデジタル署名を利用し、ネット振込で決済すれば全てオンラインで済ませることも技術的には可能だ。

とはいえ、全て案件がデジタル・バーチャルで完結することにはならないであろう。やはり目で見て肌で感じる部分も大切だ。実際に物件を見て、担当者と話をして、契約をする。そうしたいというニーズもすぐに無くなるとは思えない。今後はデジタル化によってリアルがバーチャルへと移行するのではなく、リアルとバーチャルの2つの選択肢ができる、そんな営業シーンになると考えられる。

 

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田中和彦 
株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。