田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第214号]消滅する街の特徴~人口戦略会議レポートより

2024年04月25日

 「人口戦略会議」が発表したレポートが話題となっている。

 筆者の住む関西では、100年後も若い女性が5割近く残り持続可能性が高いと考えられる「自立持続可能性自治体」と、2050年までの30年間で若年女性人口が半数以下になる「消滅可能性自治体」はそれぞれ以下の通りとなった。

自立持続可能性自治体(全部で6自治体)

滋賀県 守山市、栗東市
滋賀県 木津川市、大山崎町
大阪府 島本町
奈良県 葛城市

消滅可能性自治体(主な自治体)

大阪府(河内エリア) 富田林市、河内長野市、柏原市、門真市
大阪府(南大阪エリア) 泉南市、阪南市
大阪府(北大阪エリア) 豊能町、能勢町
奈良県 大和高田市、五條市、御所市

 30年先の話であり、またあくまで一研究機関のレポートなので、どこまで確からしいかという話もあり、ましてや上記で挙げられた都市が「消滅」するとも考えにくい。ただ、様々な統計のうち比較的「当たりやすい」とされる人口統計であり、不動産業界にいるものとしては看過できない。そんなわけでこの統計を眺めているのだが、並んでいる都市にはある傾向が見て取れ、持続可能性・消滅可能性が高いとされる理由もイメージできる。

 まず自立持続可能性自治体とされる6自治体のうち4自治体(守山市、栗東市、大山崎町、島本町)は、JR東海道線沿線であり且つ都市化されていない未開発エリアの多い行政区。政令指定都市である京都市・大阪市からの距離も近く、交通利便性とゆとりのある街並みの両立がポイントと言える。

 各都道府県毎で比べてみるとさらに顕著だ。JR東海道線が通る滋賀県(20%未満)、京都府、大阪府、兵庫県(ともに20~40%未満)に比べ、JR東海道線が通らない奈良県(40~60%未満)、和歌山県(60~80%未満)は顕著に「消滅可能性自治体」の割合が高い。

 その「消滅可能性自治体」。大阪市内への通勤エリアにも複数あるが、ひとえに梅田エリアへの交通便の悪い行政区。どの行政区も天王寺・難波へのアクセスは乗り換えなしで可能。しかし梅田へは乗り換えが必要。富田林市は市内中心部を通る鉄道路線が近鉄長野線と呼ばれる支線で、天王寺界隈に向かうにも乗り換えが必要だ。

 例外的なのが門真市。同市は大阪市に隣接。京阪本線、大阪メトロが利用でき、大阪市内への利便性は高い。また大阪モノレールを利用すれば大阪空港へも乗り換え無しの一直線。JR線でのアクセスができない、鉄道利用が困難なエリアが広い、木造住宅密集地が多い等理由は色々と考えられるが、なぜここまで消滅可能性が高いのかは少し不思議な気もする。

 また出生率が低くほかの地域からの人口流入に依存している「ブラックホール型自治体」は以下の通り。

ブラックホール型自治体

京都府 京都市
大阪府 大阪市

 この両市の封鎖人口(各自治体において人口移動がなく、出生と死亡だけの要因で人口が変化すると仮定した推計結果)における若年女性人口の減少率(%)が、京都市は京都府下で二番目、大阪市は大阪府下で一番高いというのはかなり衝撃的な結果であった。この両市においては他自治体からの流入がなければ「消滅可能性がある」ということになる。ちなみに東京では23区中16区が「ブラックホール型」……。新宿区や渋谷区、品川区に、転入がなく半数以上減少するとは考えにくい。京都市、大阪市もぜひ区別に数値を見てみたい。

(参考サイト)
令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート(一般社団法人北海道総合研究調査会)
“消滅する可能性がある”744自治体 全体の4割に 人口戦略会議(NHK)

この記事の編集者

田中 和彦

株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。

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