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  • 2020.05.15
NO.292
東京都渋谷区「恵比寿」の特徴

ガーデンプレイス開業以降、住居・商業施設のバランスが良い人気のエリア

東京都渋谷区「恵比寿」の特徴とマンション

 住所が「恵比寿」である町域はJR山手線恵比寿駅東の周辺だが、一般的に「えびす」と呼ぶ場合は恵比寿駅西部周辺の恵比寿西、恵比寿南町域、さらには目黒区三田の一部まで含めたエリアを「恵比寿」と総称している。

ビールのブランド名が街の名になった稀有な例

 恵比寿の地名は、現在のガーデンプレイスの敷地に建っていた「ヱビスビール」工場に由来する。サッポロビールの本拠地として、ビール広場・ビール橋・ビール橋などの名称が残っている。ローマ字表記の場合にも、「Ebisu」のほか、「ヱビスビール」の商標と同じように「Yebisu」と表記されることもある。

 街は大きく3つのエリアに分けられる。恵比寿駅からスカイウォークでアクセスする「ガーデンプレイスエリア」、恵比寿駅から中目黒に向かって伸びる、飲食店が並ぶ「商業エリア」、そして恵比寿駅から広尾駅に広がる「住宅街」だ。

 街の名の由来となったヱビスビール(Yebisu Beer)は、サッポロビールの前身である日本麦酒醸造会社が製造していたビールだ。1887年にドイツからビール醸造技師カール・カイザーを招聘して生産したとされる。当初は七福神のなかの大黒天から命名しようとしたが、すでに横浜に「大黒ビール」が存在し、「恵比寿」となったという資料が残っている。先の大戦戦時中からしばらく消滅するも、1971年にコーンスターチなどの副原料を含まない国産初の100%麦芽を使ったビールとして復活した。

 ヱビスビールの工場は東京府荏原郡三田村(現在のガーデンプレイスの目黒区三田側)に建設された。当初は馬車で積み出されていたが、販売量の増加に伴って1901年(明治34年)に出荷専用の貨物駅・恵比寿停留所がつくられた。1906年(明治39年)、貨物駅「恵比寿停留所」そばに作られた旅客駅が恵比寿駅だ。現在のJR恵比寿駅の列車発車メロディには、ヱビスビールCMに使っている映画「第三の男」のテーマ音楽が使われている。

 ちなみに余談ではあるが、映画「第三の男」は、1949年のイギリス映画で、第二次大戦後のウィーンを舞台にしたフィルムノワールだ。第三の男を演じたオーソン・ウェルズの演技とオーストリアの民族楽器・ツィターが奏でるテーマ曲が印象に残る作品。テーマ曲は1950年代の世界最大のヒット曲となった。映画も1949年の第3回カンヌ映画祭でグランプリを獲得した。

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ビール工場跡地に出来た街、恵比寿ガーデンプレイス

 恵比寿ガーデンプレイスは、先に記したとおりサッポロビール工場跡地に1994年(平成6年)にオープンした複合施設で、ひとつの街を目指して開発された。そこにはタワーマンション、高層オフィスビル「恵比寿ガーデンプレイスタワー」、三越百貨店を核テナントとした商業施設、レストラン&カフェなどの飲食店、「東京都写真美術館」や「ウェスティンホテル東京」などを内包する。事業母体でエリア不動産を100%所有するサッポロビール本社ビルもある。その本社ビルには「恵比寿麦酒記念館」が併設されている。
 所在地の住所は北側が渋谷区恵比寿4丁目、南側が目黒区三田1丁目だ。400mほどのJR恵比寿駅から歩行者は、動く歩道「スカイウォーク」を利用してアクセスする。

フレンチの銘店「ジョエル・ロブション」

 エリアには独立した建物の有名高級フレンチレストラン「ジョエル・ロブション」がある。オーナーシェフのロブションが日本に開店した1号店で、1階が「ラ・ターブル・ドゥ・ジョエル・ロブション」、2階・3階にジョエル・ロブションが世界で展開するレストランのなかで最高峰のブランドとなる「ガストロノミー “ジョエル・ロブション”」入居する。ミシュランガイド東京によれば、それぞれ前者が二つ星、後者が三つ星を獲得している。

 本拠地を恵比寿ガーデンプレイスに置く縁で、サッポロビールとジョエル・ロブションは共同開発商品を展開しており、2013年、2014年、2015年に「薫り華やぐヱビス」を期間限定発売。シャンパンの本場シャンパーニュ地方の麦芽とネルソンソーヴィン種のホップを使用したビールだった。また、「ヱビス with ジョエル・ロブション・フレンチピルス」を2019年11月26日より期間限定販売した。シャンパーニュ産淡色麦芽と「ネルソン・ソーヴィン」「シトラ」2種のホップを使用した、ジョエル・ロブション氏との生前最後となる共同開発商品だ。そのビアスタイルはピルスナーである。

「住みたい街ランキング2018」でトップに立った恵比寿

 不動産情報サイト「SUUMO」がまとめた「住みたい街ランキング2018 関東版」によると、恵比寿は横浜に次いで2位。上位の常連で、居住地としても人気が高い。東京都内で常連のトップだった吉祥寺を抜いてトップになったことでニュースにもなった。

 その恵比寿でサッポロホールディングス(HD)は、2020年までに東京・恵比寿のまちづくりに200億円を投資するとしている。この地区に投資するのは「恵比寿ガーデンプレイス」以来となる。都内で再開発を積極化している渋谷や品川などとの競争が激化しており、街の魅力を増して対抗し、不動産の収益力を高める狙いだという。

 また、野村不動産は、渋谷区恵比寿南3丁目の国家公務員宿舎原町住宅跡地に「プラウド恵比寿ヒルサイドガーデン」を2020年1月に竣工。JR恵比寿駅から徒歩4分という好立地に、ホテル・介護施設・保育施設を併設予定。

吉田 恒道

Yoshida Tsunemichi

大学卒業後、ファッション専門誌の編集者を皮切りに、音楽誌、自動車専門誌などの編集者を歴任。その後、複数のライフスタイル誌の編集長を経てフリーに。著書に「シングルモルトの愉しみ方」(学習研究社)がある。

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