細野透の「赤信号・黄信号・青信号」 不定期
細野 透

[第40号]マンション居住者が実感する「新型コロナ三密問題」の難しさ

2020年06月01日

新型コロナウイルス感染症対策の基本

 新型コロナ感染症対策の基本は、以下に示した『三密状態』を解消することとされています。

 ①「密閉空間──換気の悪い空間」
 ②「密集場所──多くの人が密集している場所」
 ③「密接場面──互いに手を伸ばしたら届く距離で、会話や発声が行われている場面」

 マンションの中で、この三密状態が懸念されている空間の代表例は、朝のラッシュ時を迎えた「エレベーターの内部」です。そして特に、「超高層マンションのエレベーターの内部」になると、三密状態の解消は極めて難しくなっていきます。

 今回は、マンション居住者が感じている「新型コロナ三密問題」の難しさについて、深掘りしてみました。

 

日本環境汚染学会が示した「三密問題に対する注意事項」

 三密問題に対して最初に動いた機関は、「日本環境汚染学会」だと思われます。同学会は2020年2月28日、一般市民に向けて、「新型コロナウイルスの感染が疑われる人がいる場合の家庭内での注意事項」を公表しました。

 ①感染者と他の同居者の部屋を可能な限り分ける。
 ②感染者の世話をする人は、できるだけ限られた方(一人が望ましい)にする。
 ③できるだけ全員がマスクを使用する。
 ④小まめにうがい、手洗いをする。
 ⑤日中はできるだけ換気をする。
 ⑥取っ手、ノブなどの共用する部分を消毒する。
 ⑦汚れたリネン、衣服を洗濯する。
 ⑧ゴミは密閉して捨てる。

 URL<http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/dokyokazoku-chuijikou.pdf>

 

マンションにおける「三密エレベーター問題」への対処法

 三密問題のうち、マンションにおける「三密エレベーター問題」への対処法に関しては、マンション居住者向け情報サイト「マンション・ラボ」に、4月14日付けで実用的な記事が掲載されました。

「新型コロナウイルス感染症拡大に伴うマンション共用部分のエレベーターや共用施設利用の注意」

 ①共用部分の消毒について
 ②衛生対策は、外で使う「手」を決めて行動する
 ③エレベーターに乗るときの注意
 ④共用施設利用は、自粛?停止?
 ⑤感染症対策の知見の共有と、防災マニュアルに感染症項目の追加を!

 役に立つ内容ですので、マンションで生活する皆さんは、ぜひ目を通してください。

  URL<https://www.mlab.ne.jp/management/columns_20200414/>

 このうち「③エレベーターに乗るときの注意」は、次のような内容になっています。

 ⓐマスクを着用
 ⓑ階数ボタンに触れたあとの手洗い(ボタンに触れる手を決める)
 ⓒエレベーター内ではなるべく咳やくしゃみを我慢する
 ⓓ乗っているあいだ、ウイルスが付着しているかもしれないので壁にもたれない
 ⓔ複数人が乗っていて混雑している場合はなるべく見送る
 ⓕ通勤時はエレベーターの混雑時間帯を避ける
 ⓖかご内に換気扇が付いているエレベーターの場合は、換気扇がオンになっているかどうか確認

 気を付けなければならない点が、アチコチにあります。そして超高層マンションの上層階に住んでいる場合には、特に「ⓔ複数人」と「ⓕ混雑時間帯」への対処が、かなり厄介になると思われます。

 

マンション生活で感じている新型コロナへの不安

 さて、上記のマンション居住者向け情報サイト『マンション・ラボ』を運営するのは、「株式会社つなぐネットコミュニケーションズ(本社・東京都千代田区新大手町ビル)」です。

 同社は『マンション・ラボ』のアンケート会員を対象に、「マンションにおける新型コロナウイルス感染対策に関するインターネット調査」を4月9日〜26日に実施、2560名の回答を得ました。

 そして、調査結果を5月7日に公表しました。

 ◆質問「現在、特に不安に感じていることを教えてください(複数選択可)」。

 ①自分や家族の感染─62.7%
 ②終息の見透しがたたないこと─59.4%
 ③日本経済・景気の悪化・低迷─53.9%
 ④医療崩壊─51.8%
 ⑤ワクチン・特効薬がないこと─48.6%
 ⑥自分や家族が感染源になってしまうこと─43.8%
 ⑦感染してしまった時の隔離対応─43.2%
 ⑧物資の不足(マスク・紙製品・食料品など)─42.7%
 ⑨外出の自粛が長引くこと─38.9%
 ⑩重篤化して死に至るかもしれないこと─31.3%
 ⑪仕事の減少・所得の減少─19.8%
 ⑫子供(学生)の学力低下─12.7%
 ⑬その他─1.7%
 ⑭特に不安は感じていない─5.4%

 ここに並んでいる「不安に感じている」内容は、マンションに住んでいる人でも、戸建て住宅に住んでいる人でも、「余り変わらない」ような気がします。

 ◆質問「今お住まいのマンション全体で行っている、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐ取り組みを教えてください(複数選択可)」。

 ①注意喚起ポスターの掲示またはビラの配付─29.1%
 ②ゲストルーム・集会室などの共用施設の使用自粛要請─20.4%
 ③アルコール消毒液などの設置─12.8%
 ④オートロック・エレベータボタン部分などの定期的な消毒─9.9%
 ⑤居住者同士の不要不急の接触禁止─5.2%
 ⑥ゴミ出しの制限(時間や曜日など)─3.0%
 ⑦マスクの配布提供─0.6%
 ⑧その他─3.9%
 ⑨特に取り組みを行っている様子はない─51.7%

 気を付けなければならないのは、①から⑧までは、「取り組みの内容」です。その一方、⑨では51.7%もの人が、「特に取り組みを行っている様子はない」と答えています。

 51.7%という数字を見ると、「こんな状態で、大丈夫なのかなぁ」と心配になってきます。

 

マンション居住者から寄せられた自由意見

 最後にマンション居住者から寄せられた自由意見を、ピックアップしてみましょう。居住者、管理組合、管理会社など、「それぞれの立場からの緊張感」が伝わって来るような内容です。


 ①三密状態を避けるために、管理組合の通常総会では出来るだけ出席を控えて、その代わり「委任状/議決権行使書」で意見表明してもらうようにした。

 ②管理組合が集会室を使用する際には、マスクを着用し手を消毒した上で、座席の間隔を空けて着席してもらう。その上で、窓を開けて換気をして、議事は最小限の時間で切り上げている。

 ③管理会社から、管理人の業務中止などについて連絡があり、「ゴミ出しや清掃作業などが、契約通りにできなくなるかもしれない」とのことだった。現在のところ「都市封鎖」のような事態にはなっていないので、発動されていないが、そのような事態になった場合の対処方法などを決めておく必要があると思った。

 ④管理組合から居住者へ、「緊急事態宣言発令中の対策ついてのお知らせ」を配布した。その中で特に注意したのは、「自転車シールの更新、駐車票、リフォーム申請書等の各種届出、設備点検、集会室の開閉、清掃、ゴミ置き場」などに対する対応を周知徹底することだった。

 ⑤「緊急事態宣言が発令された場合の対応」連絡する掲示があった。その中に、「管理員はマンションに出勤できないかもしれないので、各住戸から出る家庭ゴミは自宅で保管してもらう場合がある」とあった。

 ⑥マンション内に感染者が出た場合には、本人または家族から管理会社に連絡しなければならない。それを受けて、管理会社は館内告知と消毒作業を行うことになるらしい。

 URL<https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000007041.html>

 念のために筆者(細野透)が付け加えておきたいのは、各マンションで働いている管理人さんが抱えている事情です。マンションの管理人は絶対的な人出不足であるのに加えて、その多くは定年退職後に仕事に就いた人達です。

 すなわち、新型コロナウイルスに感染しやすい「高齢者」であるゆえに、「無理」をさせないように配慮してあげなければならないのです。そういうことを前提にして、皆さんが協力し合って何とか事態を乗りきってください。

 

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細野 透(ほその・とおる)
建築&住宅ジャ─ナリスト。

 建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

 著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。