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[第54号]熱海市伊豆山で大規模な土石流、上流の「盛り土」が影響か

2021年08月02日

細野 透 ( ほその とおる )

逢初川沿いに土砂が2kmほど流れ落ちる

 静岡県熱海市の伊豆山地区で、2021年7月3日午前10時半ごろ、大雨の影響で大規模な土石流が発生。JR熱海駅から北に約1.5km離れている逢初(あいぞめ)川沿いで、土砂が海に向かって2kmほど流れ落ちた。土石流は複数回起こっており、複数の住宅や車が流された。

 静岡県災害対策本部の発表によると、7月25日の時点では、計131棟(128世帯、216名)の建物が被害を受け、死者9人、行方不明者18人の惨事となった。

 静岡地方気象台によると、県内では6月30日午後6時ごろから7月3日午前5時ごろまで断続的に雨が降り続き、降水量は複数箇所で400mmを超えた。これは、平年の7月の1カ月分を上回る。土石流の発生当時、熱海市は5段階の警戒レベルで3番目に当たる「高齢者等避難」を2日午前10時に発令していた。

 県や専門家は、最上流部にあった盛土の崩壊が、引き金になったとの見方を示す。谷地形を埋め立てた盛り土が、長時間の雨で増加した地下水の流れを、せき止めていたとみられる。


画像は「国土交通省 水管理・国土保全局 砂防部」のプレスリリースから引用

 土石流が流れた場所は、急峻(きゅうしゅん)な山間地の谷地形だ。静岡県によると、土石流の起点では約5.4万立方メートルあった盛り土がほぼ全て崩れた。流れ出た土砂の総量は推定で約10万立方メートルに上る。

 土石流の流路の傾斜は約11度。起点から海岸までほぼ一定の角度を保っていた。土石流の勢いを弱める箇所が少なかったため、約2kmの区間を一気に流れたとみられる。

 したがって、緊急的な砂防工事に際しては、「既設の砂防堰堤の除石、砂防堰堤の新設、不安定部の除去、仮設ブロック堰堤の新設」などが必要になる。

 

国の直轄施工による緊急的な砂防工事の概要

 被害を拡大しただけでなく、崩壊の起点となった恐れがあるのが、源頭部の谷埋め盛り土だ。県によると、源頭部で崩壊した約5万5500立方メートルの土砂の大半が盛り土だった。

 盛り土をしたのは神奈川県小田原市の不動産会社(清算)とされる。この会社は07年、静岡県の土採取等規制条例に基づいて約3万6000立方メートルの盛り土に関する届け出をし、09年3月に土砂の搬入を開始。10年8月に造成をほぼ終えた。

 この頃、盛り土に産業廃棄物が混じっていることが判明し、県や市から行政指導を受けている。その後、現在の所有者が11年にこの土地を取得した。

 静岡県の難波喬司副知事によると、09年の申請では盛り土の高さは15mだったが、県が20年に測量したデータでは50mほどの高さになっていた。盛り土の量は6万~8万立方メートルほどあった可能性もあるという。県の技術基準では、盛り土の高さを原則15m以内としている。


画像は「国土交通省 水管理・国土保全局」のプレスリリースから引用

 

雨水が集まりやすい地形

 伊豆山地区周辺は、2019年10月の東日本台風(台風19号)で大きな土砂崩れは起きなかった。伊豆山地区に最も近い熱海市網代の観測地点では、24時間降雨量が200mmを超える強い雨を記録した。

 土石流が発生した今回は、同観測地点で24時間降雨量が200mmを超えなかった。しかし、短時間に集中して降る雨ではなかったものの、7月1日から土石流が発生した7月3日まで100mmを上回る雨が降り続いていた。長時間にわたって雨が降り続けると、土の中に水分が蓄積しやすい。

 崩壊の起点の標高は約390mで、標高734mの岩戸山の中腹にある。盛り土で埋め立てる前は谷地形の最上流部だったので、周辺に降った雨水が集まりやすかった。

 

7月の1カ月雨量を数日で上回る

 静岡地方気象台によると、静岡県で雨が降り始めたのは6月30日午後6時ごろ。断続的に雨が降り続き、降り始めから7月3日午前5時までの降水量は複数箇所で400mmを超えていた。これは、平年の7月の1カ月雨量を上回る。

 土石流が発生した場所から8kmほど離れた同市網代の観測地点では、3日朝から雨が強まった。3日午前6時以降は、1時間に10~20mm程度の雨が観測されていた。土石流が発生した午前10時ごろの雨量は、1日~3日までで最も強かった。ただ、1時間雨量は27mmで、50mm以上の非常に激しい雨は降っていなかった。

 熱海市は、5段階の警戒レベルで3番目に高い「高齢者等避難」を2日午前10時に発令。土石流が発生した約30分後に、警戒レベルの最も高い「緊急安全確保」を出した。

 

「熱海土石流の二の舞を演じない」、国交省が全国の危険な盛り土抽出へ

 静岡県熱海市の伊豆山地区で発生した土石流災害を受け、国土交通省は土砂災害を引き起こす恐れのある危険な盛り土の抽出に乗り出した。今年8月くらいを目途に、標高差が5m以上ある盛り土を明らかにして、自治体などへ情報を提供する方針だ。

 今回は国土地理院が2万5000分の1地形図を基に作製した2000年ごろまでの標高データと、08年以降に航空レーザー測量によって作製した標高データとを見比べる。その上で、標高が5m以上変わっている箇所を抽出する。

 抽出後は許認可を受けていない「違法盛り土」などを明らかにして、優先的に対策を講じることになりそうだ。盛り土などの行為は、宅地造成や砂防など開発の目的によって許認可を受ける主体が異なる。そのため、各部署で対応方針を定めていく。

 赤羽一嘉国土交通大臣は2021年7月6日の会見で、「関係省庁と協力して、全国の盛り土の総点検をする方向で考えていかなければならないという問題意識を持っている」と話した。

 

大規模盛り土の滑動崩落対策はまだ2自治体

 なお宅地造成については、地震などによる滑動崩落対策として、大規模な盛り土の分布を20年3月に全自治体がマップで公表している。大規模な盛り土は約1000の自治体で5万1000カ所に上る。

 例えば、谷を埋めた面積が3000平方メートル以上の盛り土が存在すれば、危険の有無にかかわらず公表される。今回の抽出では、標高差が5m以上という条件なので、これまで大規模盛り土造成地マップで公表されていなかった、小規模な盛り土箇所も明らかになりそうだ。

 ただし、宅地造成の滑動崩落防止事業では、危険の恐れがあると判定された盛り土は少ない。2021年7月時点で、防止事業に進んだ例が2つの自治体しかない。地震のたびに宅地の盛り土が崩壊している事例が報告されており、事前に危険と評価される盛り土がもっとあってもおかしくないはずだ。今回抽出する盛り土では、どういう評価軸で危険度を判定するのかが注目される。

 盛り土の安定性も重要だが、熱海市での土石流災害の教訓を踏まえて、盛り土がある場所の評価も重要になるだろう。川の上流部に位置するような盛り土は、一度崩れれば大事故につながりかねないからだ。

 

細野 透(ほその・とおる)
建築&住宅ジャ─ナリスト。

建築専門誌『日経ア─キテクチュア』編集長などを経て、2006年からフリ─ランスで活動。東京大学大学院博士課程(建築学専攻)修了、工学博士、一級建築士。

著書に、『建築批評講座』(共著、日経BP社)、『ありえない家』(日本経済新聞社)、『耐震偽装』(日本経済新聞社)、『風水の真実』(日本経済新聞出版社)、『東京スカイツリーと東京タワー』(建築資料研究社)、『巨大地震権威16人の警告』(共著、文春新書)、『謎深き庭 龍安寺石庭』(淡交社)など。