田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第106号]「住んでみたい街」は資産価値の高い街

2019年10月11日

【関西は阪急神戸線の一人勝ち】

新築マンションポータルサイト「MAJOR7(メジャーセブン)」から「住んでみたい街アンケート(首都圏/関西)2019年」の結果が発表された。首都圏、関西それぞれ1位は5年連続(「恵比寿」)、4年連続(「西宮北口」)と「長期政権」となった。

ところで関西のランキング上位の街にはわかりやすい傾向がある。傾向というよりも極端な偏りがある。上位10駅中7駅が阪急神戸線の駅だ。「梅田・大阪」については阪急神戸線沿線という意識で選んでいないであろうが、「(JR)芦屋」は「芦屋川」と直線距離で1kmも離れておらず「阪急神戸線沿線」と言えなくもない。何れにしても阪急神戸線の人気が絶大なのは間違いない。

中でもさらに特急停車駅の人気が高い。阪急神戸線の特急停車駅は大阪側から順に「大阪梅田」駅、「十三」駅、「西宮北口」駅、「夙川」駅、「岡本」駅、「神戸三宮」駅であり、「十三」以外は全て10位以内。上位4駅全てが特急停車駅だ。


【山の手=高級のイメージを維持する阪急線】

阪急神戸線は大阪(梅田)と神戸(三宮)を結ぶ路線であり、大阪市北区から大阪市淀川区、尼崎市、西宮市、芦屋市を経て神戸市東灘区、灘区、中央区をつなぐ。大阪市〜尼崎市は平坦な平野部を、西宮市以降は大雑把に言えば「海と山とに挟まれたなだらかな丘陵部」を通る。

阪急神戸線の中でも上位にランクされているのは「梅田・大阪」を除けば、この丘陵部、すなわち西宮市・芦屋市・神戸市に位置する駅だ。

この3市は狭いエリアで南から順に阪神本線、JR山陽線、阪急神戸線の三線が通っていて、鉄道が敷設当時は大まかに、阪神線は旧市街地、JR線は工業地、阪急線は山手の郊外という沿線イメージであったが、その後阪急沿線は阪急電鉄による住宅開発がなされ「山の手の住宅街」と変貌していったのは有名な話だ。

今では、JR線近くの大規模工場もその多くがマンション等に姿を変え、阪急線界隈も開発が進み鉄道開業当時の面影もない。それでも阪急線周辺は一番北側、すなわち「山の手」にあるために自然環境に優れ、特に高低差の少ない平地部の人気は抜群だ。このことは、北部エリアが「坂道アプローチ」となる夙川や岡本よりも、周囲に高低差がなく「フラットアクセス」となる「西宮北口」の方が評価が高いことからわかる。


【住んでみたい街=資産価値の高い街】

さて、この「住んでみたい街」。人気投票で1位になるわけだから、便利で住みやすい場所であることは容易に想像がつく。しかし、「あなた」にとって「住みやすい街」であるかどうかはわからない。中には住んでから「物価が高い」「近所付き合いが難しい」といったネガティブ要素があるかもしれない。

これは、高級外車に乗りたいと思っていても、いざ乗ってみたらメンテナンスが面倒、ランニングコストが高い、と色々悩ましいことが起きるのと似ている。「憧れ」と「現実」は違う。「住んでみたい街」は「住みやすい街」とは限らない。

では「住んでみたい街」に意味がないかと言えば、そんなことはない。「住んでみたい街」と多くの人が考えている、それは資産価値が高いと言い換えてもいい。関西にはたくさんの沿線があり、その沿線にはたくさんの駅がある。大阪市だけでも200を軽く上回る数の駅があり、大阪府下となると2013年時点で520駅。「住んでみたい街アンケート」の回答対象の駅としては関西で1000程はあると考えられる。一般の人がこの中で幾つ駅の名前を言えるか?ましてや「住んでみたい」と思っているか?「住んでみたい街」常連の街にある不動産は、潜在的顧客が多いと考えられる。「住んでみたい街」、そこにあるだけで大きなアドバンテージだ。

(*)https://www.sansokan.jp/tyousa/publicity/img/siji_pdf/suji_77.pdf

 

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田中和彦 
株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。