田中和彦が斬る!関西マンション事情 不定期
田中 和彦

[第203号]新築マンション販売による市場の活性化

2023年11月08日

10月に沖代表の「ある不動産デベロッパーの新築マンションの近隣がなぜか値上がりする理由」という記事があった。「ある不動産デベロッパー」とはどこなのかは記事をご覧いただくとして、新築マンションが供給されることで周辺相場が上がることは珍しくない。さてどういう理屈か?

1. 当該エリアの検討者が増える

 新築マンション販売時は、ネット、チラシ、事業主の友の会の組織等で、相当な費用をかけて集客活動が実施される。中には広告以外でマスコミで取り上げられるように仕向けたり、企業とタイアップしたりとさまざまな工夫をして集客を図る。
 そのようにして大量集客された新築マンション購入検討者。中には「新築だけではなく周辺中古マンションも見てみよう」と考える人もいる。築浅物件はもちろん、築古でも大手事業者によるリノベーション物件のような魅力を持つ物件も多く、立地やランドプラン、もしくは物件の現物を見ることができ住民の様子もわかるから、と中古に流れる人もいるであろう。
 このように、新築市場から中古市場に顧客が流入することで、中古マンションの検討者が増え、市場が活性化し、値上がりの可能性が高まるというわけだ。

2. 周辺中古物件が安く見える

 最近は土地の値上がりと建築費高騰のダブルパンチで新築マンションの原価が上昇している。原価+経費+利益で価格の決まる新築マンションは、需要の有る無しに関わらず高い価格で販売せざるを得ない。この新築マンションのような価格決定方法は積算法と呼ばれる。
 一方中古マンションは、取引事例比較法で価格を決めることがほとんど。周辺の条件が似た物件の成約事例と比較して価格を決定する取引事例比較法では、建築費や土地価格の上昇下落は直接関係ない。
 よって、原価上昇が反映された新築マンション価格と周辺相場との比較で形成される中古マンション価格にはギャップが生じ、中古マンションが安く見えるようになる。安く見えると検討客は「新築と比較して割安だから買おう」となり成約事例が増える。そして売主は「新築の分譲坪単価が〇〇万円だからもう少し高く売り出そう」と売出価格が上昇する。ざっくり説明すればこういう流れだ。

3. 不動産事業者が物件の仕入れを強化する

 上記のような理屈はプロの事業者であれば知るところであり、沖社長のコラムではないが、「〇〇社が用地を仕込んだから周辺は活性化するであろう」と当該エリアで物件の仕込みをする、といったことが実際にある。元々不動産事業者は「新駅ができるから」「五輪が開催されるから」等々「買う理由」を常に探している。新築マンションが発売されれば買換え層が近傍マンションを売りにだしたり、上記1のように近傍で中古マンションを探す人が現れたりと市況が活性化する。これは「仕込み担当」にとってはチャンスだ。


もちろん新築マンションの販売が苦戦したり、市場の在庫が増えることで相場が軟化することもある。新築マンションが販売されることで、必ず相場が上がるわけではない。新築マンションの販売が予定される前から人気が高いエリアでないと相場が上がることはない。単に売り物件が増えるだけだ。確かに「あるデベロッパー」は相場を押し上げることが多い。

この記事の編集者

田中 和彦

株式会社コミュニティ・ラボ代表。マンションデベロッパー勤務等を経て現職。
ネットサイトの「All About」で「住みやすい街選び(関西)」ガイドも担当し、関西の街の魅力発信に定評がある。

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