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  • 2020.07.30
NO.318
東京都大田区「蒲田」の特徴

高級住宅街・田園調布と対照をなす「モノづくり」の工房が集積する交通至便な街

東京都大田区「蒲田」の特徴とマンション

 田園調布と対となる大田区のもうひとつの顔が蒲田エリアだ。その名のとおり旧蒲田区の中心地で工業都市だった。江戸期に農漁村だったこのエリアには、前段として当時から続く麦わら細工の小さな工房が多数できた。エリアに家内制手工業のような職場が進出するのは、大正期以降である。

 東京23区でもっとも南に位置する大田区にあるエリアで、JR東日本&東急蒲田駅および京浜急行蒲田駅周辺の蒲田・西蒲田・蒲田本町エリアを指す。広義ではほぼ、大森区と蒲田区が合併して大田区となる以前の蒲田エリアを呼ぶことが多い。狭義で云えば蒲田1丁目から5丁目となる。

小回りが効く「モノづくりの街」の前段は江戸時代

 蒲田は、かつては蒲田郷と呼ばれていた古い地名だ。927年の延喜式神名帳に荏原郡の社として蒲田の稗田神社が載っている。中世には、江戸蒲田氏がこの地を治め、蒲田郷が領地だった。後北条氏の記録でも蒲田氏一族が蒲田周辺を所領としていたと記されている。
 先の大戦の終戦間際、1945年4月の首都城南空襲で蒲田駅周辺は焦土と化す。戦後、東京都の復興事業によって現在の街並みの原型が形成された。エリアは現在のJR東日本の京浜東北線で分断され、蒲田駅周囲のおおよそ東西1.6km、南北800m程のエリアに商業施設が集中する。都心から15kmほど離れた首都圏エリアでは有数の繁華街となっている。また、JR駅東口近くの旧松竹蒲田撮影所跡に大田区民ホールを備えたアロマスクエアが、JR駅西口付近に東急駅ビルの東急プラザがある。また、京急蒲田駅先に大田区産業プラザが建つ。

 大田区には約3500カ所の工場があり、「モノづくりのまち」として知られる。そしてそれら企業は蒲田地区にほぼ半数以上が集積している。工場といっても、最終製品をつくる工場ではなく、金属を素材とした「削る」「磨く」「成形する」「メッキする」といった、ある種の加工を専門に請け負っている中規模工場や住工混在型の小規模で工房と呼べるような職場がほとんどだ。

 蒲田地区工業の“得意科目”は、金属および機械関連製造だ。この業種だけで全事業所の8割近くを占める。ちなみに、東京都全体では43%、23区では40%という占有率を誇る。国内の精密機械、最先端高度家庭電化製品やAI技術を下支えする部品を製造する日本が誇る工場地帯なのだ。

 過密な大都市の市街地に比較的規模の小さな町工場が存続できている要因として、職住近接により長時間労働が可能であること、短い納期に対応できる小回りの利く経営体が多いためだとされる。また、「仲間まわし」と呼ぶネットワークが築かれていることも大きい。自社だけでは「切削」作業しかできなくても、「穴あけできる工場」「研磨ができる工場」といったように、近くの工場に工程をまわして、受注した製品を完成・納品できるのだ。大田区の中小工場群は、高度な技術力を持つ「匠」「職人」が集まる専門工房集積地なのである。

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つかこうへい作「蒲田行進曲」

 蒲田といえば思い出されるのが、1982年の映画「蒲田行進曲」だ。撮影所を舞台に、スターと大部屋俳優の奇妙な友情、そしてこの二人の間で揺れ動く女優の姿を描く。第86回直木賞受賞作、つかこうへいの同名小説を映画化した作品だ。脚本もつか自身が執筆、監督は「道頓堀川」「火宅の人」「上海バンスキング」などで有名な深作欣二、製作は角川春樹だった。
 映画の撮影所を舞台にしたこの映画のキャストは、松坂慶子、風間杜夫、平田満らが固めていた。旧き良き日本の時代劇映画絶頂期の破天荒な大物俳優と大部屋の付き人・役者たちとの体育会的な関係を知り尽くした深作監督が、劇中劇を含めてスクリーンいっぱいに表現していた。

 映画の主題歌でもある「蒲田行進曲」そのものは、プラハの作曲家ルドルフ・フリムル(1979-1972年)作のオペレッタ「放浪の王者」(The Vagabond King)のなかの「放浪の歌」だ。その曲に日本語の歌詞(堀内敬三・作詞)をつけて1929年の松竹映画「親父とその子」の主題歌とした。その曲を映画「蒲田行進曲」が引用し、映画公開と同時に松坂慶子・風間杜夫・平田満によるカバーシングルがコロンビアから発売された。この曲は松竹蒲田撮影所の所歌となり、JR東日本蒲田駅の電車の発車メロディとなった。

鉄道交通至便な都会派に人気の街

 エリアは順次再開発が進み住みやすくなった。抜群の電車交通利便性を誇り、品川まで約10分、羽田空港までは京急蒲田駅から約12分でターミナルに到着する。週末も含めて移動が多いアクティブな都会派に必見の街だ。蒲田には先に述べたJRと東急の蒲田駅と京急蒲田駅があり、合わせて5つの路線、JR京浜東北線、東急多摩川線・池上線、京急本線・空港線が利用できる。

 商店街も充実している。総合食品スーパーの東急ストアとマルエツのほかに、それぞれ駅ビルにSCを備えている。JR蒲田駅西口には、雨の日でもゆっくり買い物ができるアーケード付きの「サンライズ商店街」と「サンロード商店街」の2つの商店街があり、昭和レトロな昔ながらの店を始め、チェーン飲食店、洋服店、クリニック、映画館建ち並んでいる。

さらに進む再開発

 その蒲田の街は、さらなる再開発による活性化を目論んでいる。「蒲田駅東口駅前地区市街地再開発準備組合」がこの3月発足。同地区に隣接するエリアとともに、都市計画決定を急ぐ。蒲田駅東口駅前地区の現時点の検討範囲は、現在までのところでは権利者は18者で、再開発地域は蒲田5丁目エリアの約0.6ヘクタールとされている。が、今後再開発範囲が拡がる可能性もある。いずれにしても蒲田の街づくりとの整合性を図りながら進められる見込みだ。また、隣接した東口中央地区でも、事業協力会社として東急建設、野村不動産が協働で、約1ヘクタールの規模で再開発準備を進めている。

吉田 恒道

Yoshida Tsunemichi

大学卒業後、ファッション専門誌の編集者を皮切りに、音楽誌、自動車専門誌などの編集者を歴任。その後、複数のライフスタイル誌の編集長を経てフリーに。著書に「シングルモルトの愉しみ方」(学習研究社)がある。

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