住まいサーフィンレポート2023年夏-秋期 住宅評論家 櫻井幸雄が見たマンション市況&狙い目新築マンション

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マイホームは「買えるときが買いどき」

住宅評論家 櫻井幸雄

 首都圏の新築マンション発売戸数が減り続けている。
 不動産経済研究所が発表した5月の首都圏・新規発売戸数は1936戸。これは、前年同月比で、21.5%の減少だった。
 その前月、4月の新規発売戸数は1690戸で、前年同月比で30.3%の減少。3月は2439戸で2.1%の減少にとどまったが、2月は1821戸で20.4%の減少。1月にいたっては首都圏全体の発売戸数が710戸で前年同月比37.1%の減少だった。
 7月20日に発表された最新の新規発売戸数(6月)は1906戸。前年同月比で0.4%の減少で減少幅は小さくなった。
 しかし、今年に入り、首都圏の新築マンション発売戸数は昨年より大幅に減少しているのは事実だ。
 この状態が続けば、年間発売戸数が3万戸を切った2022年度の2万8632戸よりもさらに少なくなることが予想される。年間で2万4000戸とか2万3000戸の水準まで下がる可能性もありそうだ。
 1999年から2005年まで毎年8万戸以上のマンションが発売されたのと比べると驚くべき少なさなのである。
 もっとも、新築マンションの発売戸数が減っている分、中古マンションの取引が増えているので、マンションを購入する人が大幅に減ったということではない。
 新築・中古を合わせると、年間5万戸以上のマンションが購入されているので、相変わらず首都圏ではマンション人気が高いことに変わりがない。
 それでも、「マンションは新築を買いたい」という人には、少々寂しい状況であることは間違いない。そもそも、新築マンションが少ないので、やむなく中古を選んでいる人もいる。
 機能性の高さが重視されるマンションにおいて、最新の設備やセキュリティを備える新築マンションには中古にはない魅力が備わっている。その新築マンションの数が大幅に減っているのは残念な動きとなる。
 そのことから、これから予想される動きがいくつかある。

じっくり販売が続き、値引きは期待できない

 新築マンションの価格は都心部で大きく、郊外部では緩やかに上がり続けている。そのなか、新規発売戸数が減っているのは、価格上昇で購入者が減ることを不動産会社が覚悟しているからだ。
 マンションが高額化すれば、どうしたって購入者が減る。「この先も間違いなく値上がりする」と考えられている都心マンションならば、値段が上がっても投資目線の購入者は減らないだろう。しかし、準都心や近郊外で自ら住む目的でマンションを買おうとする実需層は購入に慎重になる。
 当然、販売のスピードが落ちるので、そうなってもよいように、発売戸数を減らすわけだ。
 だから、不動産会社は売れ行きが落ちても慌てない。じっくり売って行こうと考えているからだ。
 つまり、新築マンションの売れ行きが落ちたからといって、簡単に値下げは行わないことになる。
 ここ数年、新築マンション価格が上がった理由として、建設費の上昇がある。
 建設費が上がった影響で、マンション価格が上がったのであれば、売れ行きが落ちても、価格を下げることはできない。売れ行きが落ちることを見越して、発売戸数を減らし、じっくり時間をかけて売って行こうという不動産会社の方針は理にかなっていると思える。
 つまり、新築マンションは今後も値下がりしにくいわけだ。

もうひとつ懸念されるのは、品質の低下だ

 売れ行きが落ちても、新築マンションは値下げを行わない。
 とはいえ、新たに売り出される物件には工夫を凝らす。建設費が上昇するなか、なんとか安くマンションを売る方法はないか、腐心するわけだ。
 具体的には、住戸の面積をさらに狭くする。そして、マンション共用部や各住戸内で設備仕様のランクを落とす。つまり、マンションの質を落として、売り出し価格をがこれ以上高くならないよう努力するわけだ。
 部屋が狭くなることも、設備仕様のランクが下がることも、マイホーム購入者にとっては、うれしいことではない。
 以上をまとめると、これからの動きは次のようになる。
 新築マンションは売れ行きが落ちても、値下げは起きない。
 新たに売り出されるマンションは質が落ちる可能性がある。
 以上2つ動きから言えるのは、価格は高くなったからといって、購入を見合わせることは必ずしも得策ではない、ということだ。
 不動産の世界には「買えるときが買いどき」という言葉がある。
 社会や経済の状況はどうであれ、今、マイホームを購入できる状況にある人は積極的に購入すべき、という教えである。それが、後悔しないマイホーム購入につながる。
 今は、マイホーム購入の状況として好ましくない、とみられがち。しかし、購入できる人が、購入してもよいと思える物件に出会い、さらに物件が気に入ったら、迷うことなく購入すべきなのである。
 そんな物件に出会いながら、「時期がわるいから」という理由で購入を見合わせるのは決して得策とはいえないのである。

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住宅ジャーナリスト櫻井幸雄の経歴

櫻井幸雄の顔写真

1954年生まれ。1984年から週刊住宅情報の記者となり、99年に「誠実な家を買え」を大村書店から出版。
以後、「マンション管理基本の基本」(宝島社新書)、「妻と夫のマンション学」(週刊住宅新聞社)、「儲かるリフォーム」(小学館)などを出版。
最新刊は「知らなきゃ損する!21世紀マンションの新常識」(講談社刊)。
テレビ朝日「スーパーモーニング」の人気コーナー「不公平公務員宿舎シリーズ」で住宅鑑定人としてレギュラー出演するほか、「毎日新聞」で、住宅コラムを連載中。「週刊ダイヤモンド」「週刊文春」でも定期的に住宅記事を執筆している。

オフィシャルサイト
http://www.sakurai-yukio.com